愛してるの期限が切れる前に

 後ろのチャイルドシートから聞こえた声に、百花は「なぁに?」と応えた。

「あっちゃ、よむの」

 あっちゃとは、図書館で廃棄本の譲渡会で持ち帰った絵本だ。長毛の黒い子猫が旅をしながらあいうえお順に、いろんな動物や物に出会っていく、という内容で、「あっちゃ」は主人公の子猫を刺している。絵本には「こねこ」としか書かれていないが、花は「あっちゃ」と呼んでいた。

「お家に帰ったら読もうね」

 そろそろ、花にも新しい本を買ってあげたいな。
 経済誌はおろか、漫画の単行本ですらこの三年はまともに買っていない。読みかけだった連載は、どれくらい単行本が出ているのだろう。
 「そのうち」を何度も繰り返していくうちに、だんだん興味も薄れていった。
 昔は、発売日に書店に飛んでいって買っていた自分が、この三年まったく漫画を買わないなんて信じられない。

「あ、はーちゃん。ちょっとだけスーパーに寄ってもいい? ヨーグルト買いたいの」
「いいよぉ」

 今日はまっすぐアパートへ帰るつもりだったが、今朝食べたのでヨーグルトが切れていたのを思い出したからだ。仕事終わりに買うつもりだったが、うっかりしていた。
 花のご機嫌な返事に苦笑いしつつ、百花は通り道にあるスーパーに寄った。
 そこでヨーグルトと、タイムセールをしていたイチゴを一パック、カゴに入れてレジを待つ列の最後尾に着いた。
 いつもは気にも留めない雑誌コーナーに目が行ったのは、先生とした会話のせいだ。

「――っ」

 経済誌の表紙を飾るモルフォ蝶色をした瞳の美男に、目が釘付けになった。