愛してるの期限が切れる前に

 花の頬に口づけて、身支度の続きをしにいく。終わる頃には、花のご飯もすんでいるので、今度は花の支度をする番だ。歯を磨かせ、服を着替えさせれば出かける準備は万端だ。
(よかった、今日はスムーズに行けそう)
 毎朝こうならいいのに、と思うけれど、子どもの機嫌は秋の天気以上に読めない。
 花を抱きかかえながら部屋の鍵をしめて、駐輪場に停めてある電動自転車に花を乗せた。

「それじゃ、出発します」
「しゅっぱちゅ!」

 元気のいいかけ声と合図に、百花は梅雨空の下、自転車をこぎ出した。
 アパートを出ると、最近ちょくちょく見かけるようになったジョギングをしている若い男と今日もすれ違った。


「花ちゃんのお目々、レオみたいですよね」

 花を教室まで送り届けると、担任の先生が花を受け取りながら言った。
 黒目黒髪の百花とは違い、花の瞳はモルフォ蝶の翅を連想させる。

「レオって?」
「知りませんか? 鳳グループの広告塔をされている方で、芸能人じゃないんですけど、とにかく素敵なんです! 私、レオ見たさに普段は買わない経済誌買っちゃいました」

 鳳グループと聞いて、内心ひやりとなった。

「へ、へぇ、そんなすごい人がうちの子みたいな目の色をしているんですか?」
「はい。本人はモルフォカラーて言ってますね。確か、レオのお母さんがフランス人だって話しだったような。今も現役のトップモデルさんなんですって!」
「そうなんですか。それなら、目の色が青いのも遺伝かもしれないですね。うちは突然変異で、亡くなった主人もびっくりしてたくらいで」

 こんなとき、居住先に日本を選んだのは早計だったと思う。