別れた二人


ルームサービスで、葵くんと朝ご飯を食べた。

オムレツと焼き立てのパンが絶品で、葵くんのナイフとフォークの使い方は、上流階級出身だと分かる、洗練されたものだ。

食後に葵くんは、ジャケットの内ポケットから煙草の箱を取り出した。

「煙草、吸うんだね。」

葵くんから仄かに香りがしたら、吸うんだろうなとは分かっていた。

朝一番か、食後に吸うのが好きな人が多い印象。

口に咥えてライターで火を着けるところが、絵になり過ぎて困った。


「真緒ちゃんが嫌ならやめるよ。」

「お母さんが吸うから、慣れてる。大人の嗜みで、憧れる。」

体には悪いから、控えて欲しいけど。

おじいちゃんは葉巻をたまに吸ってる。

自分へのご褒美だと。


お母さんに葵くんから結婚を申し込まれたと話すと、大喜びだった。お母さんだけ、藤仁さんとの結婚に大反対していた。

“政治家の家に嫁ぐなんて、絶対に許さない!!”

お母さんは烈火の如く怒った。

お母さんとおじいちゃんの仲は険悪。

おばあちゃんから、二人は顔を合わせてはならないと、御触れが回っていて、お盆もお正月も、お母さんは実家に帰らない。

私と緒登の姉弟二人で、いつも行っていた。

“……あの、ジジイ。息の根を止めてやる……!”

完全に目がキマっちゃって、おじいちゃんの事務所にカチコミしに行こうとするお母さんを、私は必死に止めた。


おじいちゃんに正式に断りを入れてもらった。

葵くんと私は、二十歳で学生結婚した。

葵くんの御両親には、まだ会えていない。

「政略結婚とか時代錯誤なの嫌いな人達だから、気にしなくて良いよ。両親も恋愛結婚だしね。」

葵くんの祖父の代まで、本邸のお屋敷の敷地内に、妾が住む建物があったりしたらしい……。

……本妻と妾のバトルが、繰り広げられてたのかな。

私が遊びに行った事のある家は、別邸で葵くんが一人で使ってたと。

泉宮家は時代の流れに合わせ、変化して来たからこそ没落せず、現代まで続いて来た。

貴族としての役割より、商人の才を発揮する人が多かったらしい。