「この前、全部話しただろ」
「確認したいことがあります」
「俺はやってない」
刑事は何も答えない。
その沈黙が、哲平を苛立たせた。
「何なんだよ……」
「署までご同行いただけますか」
哲平は二人の刑事を睨んだ。
「……断ったら?」
「任意です。ただ、できればご協力いただきたい」
哲平は舌打ちすると、玄関に置いてあった靴を履いた。
取調室。
哲平は腕を組んだまま、目の前の刑事を睨んでいた。
「何度聞かれても同じだからな」
「では、もう一度確認します」
刑事が資料を開く。
「事件当日の深夜、あなたはコンビニへ行った」
「ああ」
「目的は?」
「店長と話すためだよ」
「何を話すつもりだった?」
哲平は黙った。
「武藤さん?」
「……クビのことだよ」
「店に戻してほしかった?」
「そうじゃねえ」
「では?」
「納得できなかっただけだ」
「何に?」
哲平の眉間に皺が寄る。
「何で俺だけなんだよ」
「俺だけ?」
「奏だって俺とやり合った。なのに、俺だけクビだ」
「山崎奏さんとの喧嘩ですね」
「先に手を出したのは俺だけど……あいつだって殴り返した」
刑事は淡々とメモを取る。
「沖島さんに腹を立てていた?」
「そりゃ腹は立ってたよ」
「殺したいほど?」
「だから殺してねえって!」
哲平の声が取調室に響いた。
刑事は表情を変えなかった。
「店へ入ったあと、何をしました?」
「店長を探した」
「声をかけた?」
「ああ」
「返事は?」
「なかった」
「それから?」
哲平の視線が落ちる。
「……奥に行った」
「そこで沖島さんを発見した」
「そうだよ」
哲平の顔が歪んだ。
あの時の光景を思い出したからだ。
「……ああ」
「それなのに、通報しなかった」
「怖かったんだよ!」
「何が怖かった?」
「だから、俺が疑われると思ったんだよ!」
「なぜ?」
「クビにされたばっかりで、店長と揉めてて……」
哲平が言葉を止める。
自分で口にしたことが、そのまま自分を追い詰めている。
「ほらな」
哲平が乾いた笑いを漏らした。
「そういう顔するだろ」
「どういう顔です?」
「俺が殺したって顔だよ」
刑事は答えなかった。
「もう一つ聞きます」
「……何だよ」
「鮎田ゆかりさんについてです」
哲平の目つきが変わった。
「何でゆかりが出てくるんだよ」
「あなたは以前、鮎田さんに好意を持っていた」
「……」
「山崎奏さんと交際を始めたことにも腹を立てていた」
「それが何だよ」
「沖島さんと鮎田さんが不倫関係にあったことは知っていましたね?」
哲平は黙った。
「知っていた?」
「……ああ」
「それについて沖島さんと揉めたことは?」
「ない」
「本当に?」
「ないって言ってんだろ」
刑事は哲平を見つめた。
「あなたは山崎さんに言っていますね。沖島さんも鮎田さんと関係がある、と」
哲平が顔を上げる。
「……だから?」
「ずいぶん詳しかったようですね」
「同じ店で働いてりゃ分かることもあるだろ」
「鮎田さんを巡って、山崎さんとも揉めた。沖島さんとも関係が悪かった」
「だから何だよ」
「そして沖島さんが殺害された夜、あなたは現場にいた」
哲平は唇を噛んだ。
「……俺じゃない」
「防犯カメラには、あなたが店へ入る姿が映っています」
「知ってるよ」
「そして、慌てて走り去る姿も」
「死んでる人間見つけたら、パニックになるだろ!」
「通報もせずに?」
「……」
哲平は何も言えなくなった。
長い事情聴取が終わった。
哲平は警察署を出る。
外はすでに暗くなっていた。
「クソッ……」
吐き捨てるように呟く。
スマートフォンを取り出す。
誰かに連絡しようとして、やめた。
そのとき。
少し離れた場所に停まっていた車の中から、二人の刑事が哲平を見ていた。
翌日。
奏とゆかりは、コンビニから少し離れた場所の前に立っていた。
流石に店長が死んですぐに店を再開することはできない。
警察、報道人達も来ていた。
「……変な感じだな」
奏が呟いた。
「何が?」
隣にいたゆかりが聞く。
「店長」
「……うん」
「まだ、死んだって実感ない」
「私も」
「ゆかり」
「ん?」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
ゆかりがうっすら笑う。
「奏くんのほうが暗い顔してる」
「そりゃするだろ」
「そうだよね」
「……うん」
数日後。
捜査本部では、一人の刑事が新しい資料を机に置いた。
「武藤哲平について、もう一度確認が取れました」
「何が出た?」
「被害者とのトラブル。それと、事件前後の行動です」
別の刑事が資料を手に取る。
「本人は?」
「供述は変わってません。店に着いたときには、すでに真司さんは死んでいた、と」
「物証は?」
「まだ決め手には欠けます」
「そうか」
刑事はしばらく資料を見つめていた。
そして静かに閉じた。
「引き続き追うぞ」
その夜。
哲平は一人で歩いていた。
後ろから車が近づいてくる。
哲平の横を通り過ぎ――少し先で停まった。
ドアが開く。
二人の刑事が降りてきた。
哲平の足が止まる。
「……またあんたらかよ」
一人の刑事が哲平の前まで歩いてくる。
「武藤哲平さん」
「何だよ」
刑事は哲平を真っ直ぐ見た。
「沖島さんの殺害について――」
哲平の表情が強張る。
「あなたに、確認したいことがあります」
「だから、俺は――」
「署まで来ていただけますか」
哲平は動かなかった。
二人の刑事を睨みつける。
「……俺じゃねえよ!何回同じ事言わせるんだよ!」
誰も答えない。
哲平はもう一度、今度は小さく呟いた。
「俺じゃねえって……」
「確認したいことがあります」
「俺はやってない」
刑事は何も答えない。
その沈黙が、哲平を苛立たせた。
「何なんだよ……」
「署までご同行いただけますか」
哲平は二人の刑事を睨んだ。
「……断ったら?」
「任意です。ただ、できればご協力いただきたい」
哲平は舌打ちすると、玄関に置いてあった靴を履いた。
取調室。
哲平は腕を組んだまま、目の前の刑事を睨んでいた。
「何度聞かれても同じだからな」
「では、もう一度確認します」
刑事が資料を開く。
「事件当日の深夜、あなたはコンビニへ行った」
「ああ」
「目的は?」
「店長と話すためだよ」
「何を話すつもりだった?」
哲平は黙った。
「武藤さん?」
「……クビのことだよ」
「店に戻してほしかった?」
「そうじゃねえ」
「では?」
「納得できなかっただけだ」
「何に?」
哲平の眉間に皺が寄る。
「何で俺だけなんだよ」
「俺だけ?」
「奏だって俺とやり合った。なのに、俺だけクビだ」
「山崎奏さんとの喧嘩ですね」
「先に手を出したのは俺だけど……あいつだって殴り返した」
刑事は淡々とメモを取る。
「沖島さんに腹を立てていた?」
「そりゃ腹は立ってたよ」
「殺したいほど?」
「だから殺してねえって!」
哲平の声が取調室に響いた。
刑事は表情を変えなかった。
「店へ入ったあと、何をしました?」
「店長を探した」
「声をかけた?」
「ああ」
「返事は?」
「なかった」
「それから?」
哲平の視線が落ちる。
「……奥に行った」
「そこで沖島さんを発見した」
「そうだよ」
哲平の顔が歪んだ。
あの時の光景を思い出したからだ。
「……ああ」
「それなのに、通報しなかった」
「怖かったんだよ!」
「何が怖かった?」
「だから、俺が疑われると思ったんだよ!」
「なぜ?」
「クビにされたばっかりで、店長と揉めてて……」
哲平が言葉を止める。
自分で口にしたことが、そのまま自分を追い詰めている。
「ほらな」
哲平が乾いた笑いを漏らした。
「そういう顔するだろ」
「どういう顔です?」
「俺が殺したって顔だよ」
刑事は答えなかった。
「もう一つ聞きます」
「……何だよ」
「鮎田ゆかりさんについてです」
哲平の目つきが変わった。
「何でゆかりが出てくるんだよ」
「あなたは以前、鮎田さんに好意を持っていた」
「……」
「山崎奏さんと交際を始めたことにも腹を立てていた」
「それが何だよ」
「沖島さんと鮎田さんが不倫関係にあったことは知っていましたね?」
哲平は黙った。
「知っていた?」
「……ああ」
「それについて沖島さんと揉めたことは?」
「ない」
「本当に?」
「ないって言ってんだろ」
刑事は哲平を見つめた。
「あなたは山崎さんに言っていますね。沖島さんも鮎田さんと関係がある、と」
哲平が顔を上げる。
「……だから?」
「ずいぶん詳しかったようですね」
「同じ店で働いてりゃ分かることもあるだろ」
「鮎田さんを巡って、山崎さんとも揉めた。沖島さんとも関係が悪かった」
「だから何だよ」
「そして沖島さんが殺害された夜、あなたは現場にいた」
哲平は唇を噛んだ。
「……俺じゃない」
「防犯カメラには、あなたが店へ入る姿が映っています」
「知ってるよ」
「そして、慌てて走り去る姿も」
「死んでる人間見つけたら、パニックになるだろ!」
「通報もせずに?」
「……」
哲平は何も言えなくなった。
長い事情聴取が終わった。
哲平は警察署を出る。
外はすでに暗くなっていた。
「クソッ……」
吐き捨てるように呟く。
スマートフォンを取り出す。
誰かに連絡しようとして、やめた。
そのとき。
少し離れた場所に停まっていた車の中から、二人の刑事が哲平を見ていた。
翌日。
奏とゆかりは、コンビニから少し離れた場所の前に立っていた。
流石に店長が死んですぐに店を再開することはできない。
警察、報道人達も来ていた。
「……変な感じだな」
奏が呟いた。
「何が?」
隣にいたゆかりが聞く。
「店長」
「……うん」
「まだ、死んだって実感ない」
「私も」
「ゆかり」
「ん?」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
ゆかりがうっすら笑う。
「奏くんのほうが暗い顔してる」
「そりゃするだろ」
「そうだよね」
「……うん」
数日後。
捜査本部では、一人の刑事が新しい資料を机に置いた。
「武藤哲平について、もう一度確認が取れました」
「何が出た?」
「被害者とのトラブル。それと、事件前後の行動です」
別の刑事が資料を手に取る。
「本人は?」
「供述は変わってません。店に着いたときには、すでに真司さんは死んでいた、と」
「物証は?」
「まだ決め手には欠けます」
「そうか」
刑事はしばらく資料を見つめていた。
そして静かに閉じた。
「引き続き追うぞ」
その夜。
哲平は一人で歩いていた。
後ろから車が近づいてくる。
哲平の横を通り過ぎ――少し先で停まった。
ドアが開く。
二人の刑事が降りてきた。
哲平の足が止まる。
「……またあんたらかよ」
一人の刑事が哲平の前まで歩いてくる。
「武藤哲平さん」
「何だよ」
刑事は哲平を真っ直ぐ見た。
「沖島さんの殺害について――」
哲平の表情が強張る。
「あなたに、確認したいことがあります」
「だから、俺は――」
「署まで来ていただけますか」
哲平は動かなかった。
二人の刑事を睨みつける。
「……俺じゃねえよ!何回同じ事言わせるんだよ!」
誰も答えない。
哲平はもう一度、今度は小さく呟いた。
「俺じゃねえって……」



