図書室が静かになってしばらくして--。
今日は久々の晴れの日。
学校の校庭で、佳奈と由梨と三人でベンチに座り、お弁当を広げている。
「栞、どう?図書委員は?」
佳奈は聞きたくてたまらないというような、ウズウズした顔で話を切り出した。
「どうって……去年とやることは変わってないよ。最近、利用者が増えたから、少しだけ忙しくなったかも」
私が答えると、佳奈はもどかしそうに少し地団駄を踏む。
「そうじゃなくて。汐留くんのこと!」
ああ、なるほど。
佳奈が校庭でこの話題を持ち出したのも、分かる気がす
る。
教室で汐留くんの話をしたら誰に聞かれるか……。
佳奈としては、ずっと聞くのを我慢していたんだろうな。
「うーんと……」
私は考えるように、少し間を置く。
佳奈の期待に水を差すようで悪いんだけど……。
「汐留くんとは少し話すだけだよ。ほとんど委員会のことだし」
「えー」
と佳奈が言った。
「当番中に話したりしないの?」
今度は由梨に聞かれる。
「草野先生に聞かれたら注意されるから。ゆっくり雑談なんてできないよ」
ポップのときは少し話をしたけど、あれくらいだし。
私が言うと、
「確かに」
と二人は神妙に頷いた。
私はお弁当の卵焼きに箸を伸ばす。けれどピタッと手を止めた。
「あ、でも……」
私の言葉に、佳奈は少し食い気味に言った。
「でも?」
「思ったよりも……話しやすい人なのかも」
「え、どうしてそう思うの?」
佳奈は箸にピーマンを挟んだまま聞いた。
「えっと、女の子たちが来て騒いでた時は謝ってくれたし、たまにちょっと笑ったりもするし」
「えー!」
と二人が目を丸くする。
「汐留くん、笑うんだー。男子といるとき笑ってることあるけど、レアだよねー」
佳奈が言った。
「あ、でも私も本当にちょっとしか見たことないよ」
念のため、付け加える。
「そういえば……」
由梨が何かを思い出したように、宙に視線を向ける。
手にはサンドイッチを持っている。
「この前、浅井さんと汐留くんが話しているのを聞いたんだけど」
浅井さんは、クラスの女の子。大人っぽい雰囲気の美人で男子からも人気があった。
けれど当の浅井さんは、汐留くんに好意があるらしく、それを隠そうともせず、よく話しかけていた。
由梨が続ける。
「浅井さんが汐留くんに『どうして図書委員になったの?』って聞いてて。
そしたら汐留くん、『浅井さんには関係ないことだから』って答えてた」
佳奈が苦笑した。
「汐留くん、浅井にも容赦ないなー」
へー、そうだったんだ。
何か言いづらいことでもあるのかな。
聞かなくてよかった……。
「なんで汐留くんが図書委員になったのか、これは永遠の謎かもね」
佳奈が、つぶやくように言った。
私も頷く。
気になるけど、本人が言わないなら仕方ないよね。
私は卵焼きを口に運ぶ。
それから三人の話題は、最近読んだ少女漫画や恋愛小説の話に変わった。
◇
高校入学したばかりの頃。
教室で1人で本を読んでいたら、
「西本さん、何読んでいるの?」
と声をかけてくれたのが、佳奈と由梨。
二人は恋愛系の話が好きらしく、恋愛小説、漫画、ドラマをよく見ているという。
たまたま読んでいた本が恋愛小説だったので、話は弾んだ。
高校入学して、比較的仲が良かった中学時代の友人とはクラスが離れてしまった。
孤独感と焦りを感じていた私にとって、二人からの声かけはありがたかった。
この一年間で、二人とはだいぶ打ち解けた。
けれど、ニ年生になった今でも、自分は二人の輪に入れてもらっている、という感じがどうしても拭えない。
二人は中学時代からの友人で、仲良くて、趣味も合う。
対して私は去年からの付き合い。
恋愛ものも読むけど、二人ほど夢中になれるわけではな
い。
どちらかといえば、私はミステリーのほうが好き。
二人の話は聞くのに、自分が好きな本の話になると、どう
しても遠慮して話せなくなる。
例えば、昨日読んだミステリーが面白くて、二人にも話したいと思ったとき。
でも、少女漫画や恋愛小説で盛り上がる二人を見ていると、つい言葉が引っ込んでしまう。
本だけじゃない。
昔から、友達に自分のことや本心を話したり、感情をさらけ出したりするのが怖くて、ためらってしまう。
友達の言葉に少し傷ついても、私は平気なふりをする。
欲しいものが被ったら、私は譲ってしまう。
もちろん、友達の前で泣いた記憶もない。
さっきみたいに、自分が話の中心になるのも少しそわそわする。
それでも。
そんな関係でも心地いいから、あまり気にしないようにしている。
二人が笑っている。
私も一緒に笑う。
ほんの少しの寂しさを抱えながら。
