国枝くんはどこか苦い表情を浮かべながら、意を決したように続けた。
「西本さんに、謝らなきゃいけないことがあって」
ーーえっ?
思いがけない言葉だった。
「謝らなきゃいけないこと?」
私は聞き返した。
何かあったかな。
心当たりがなくて、私は首をひねった。
「覚えてないかな‥‥‥。
中三の、もうすぐ卒業っていう頃のこと。
教室でさー、俺が落としたペットボトルの水が、西本さんの本にかかってしまって」
「あ‥‥‥」
言われて思い出した。
あの時のことか‥‥‥。
確か、あの日は放課後。
私は教室の、自分の席に座っていた。
片付けをしようと、本を机の上に置いた。
隣では男子たちが何人か集まって話をしていたと思う。
そのうちの一人がよろけて、その人が持っていたペットボトルが、私の机の上に落ちてしまった。
運悪く、ペットボトルの蓋は開いてて、私の机の上に水がこぼれる。
机の上にあった本はあっという間にーーわりと盛大にーー濡れてしまった。
その男子は、クラスメイトの国枝くんだった。
「あ、ごめん!」と言っていたのは覚えてる。
その直後、
「国枝、早くしろよ」
と、他の男子に呼ばれ、国枝くんは、
「本当にごめんね」
と言いながら、そのまま教室を出て行ってしまった。
もう一年以上前のことで、正直、国枝くんに言われるまで、すっかり忘れていた。
「で、でも。国枝くん、わざとじゃなかったし」
