本の落ちた音で、汐留くんたちの集団がこちらに視線を向ける。
「おい、おい、何してんだよ?」
原くんが、からかうように言った。
「あ、ごめーん」
「こ、こちらこそ」
私は少し頭を下げた。
田中さんは「あはは」と笑いながら、床に落ちた一冊の本を拾った。
--あっ。それは……。
そう思ったときには、もう遅かった。
「え、『バスケットボールの基本』?」
田中さんは、大きな声で本のタイトルまで読み上げてしまった。
頬がかあっと熱くなる。
これは、私が一番、人に見られたくなかった本--。
心臓が、バクバクと脈打つ。
田中さんが、私を見る。
「西本さん、バスケ興味あるの?」
そして笑って
「あ、もしかして、汐留と谷口の試合を見るため?
ずいぶん熱心ね〜」
と皮肉っぽく言った。
汐留くんたちの集団からも、声が聞こえる。
「えっ、西本さん、バスケの本読んでるの?」
「いがーい」
何も言えない私に、田中さんはニヤッとして、今度は私だけに聞こえるように、声を少し小さくして言った。
「それとも、汐留に本読んでるってアピってるの?」
一瞬、田中さんが何を言っているのか分からなかった。
けれど、言葉の意味を理解してから、私の顔はさらに熱くなった。
体が強張る。
--違う……。
確かに、試合を見るからと思って、本を借りた。
だけど、そんな皮肉を言われるような気持ちじゃない。
もちろん、アピールしたいわけでもない。
私、汐留くんに、本を借りたと言うつもりもなかった。
クラスメイトたちのクスクスと笑う声が聞こえる。
言わないと。
本も、拾わないと。
でも、体が動かない--。
