ハイキングが終わって、教室ではいつも通り授業が行われている。
今日の最後の授業は、現代文。
先生に指名された生徒が、教科書を読み上げている。
「じゃあ、次は汐留」
名前を呼ばれた汐留くんは立ち上がる。
私は汐留くんより後ろの席なので、汐留くんの横顔がちらりと見えた。
「夏の夜空は美しく--」
汐留くんの声が教室に響く。
やっぱり汐留くんの声って、落ち着くなあ。
雨の中、東屋で聞いた汐留くんの声もそうだった。
聞いているうちに、ハイキングのときのことが脳裏に蘇った。
あの日、雨が止んだあと、四人で東屋から出て、一緒に下山した。
運動部に所属している私以外の三人は、雨に濡れた道もものともせず、平気な顔でスタスタ歩くのに対し、私はおぼつかない足取りでノロノロと歩いていた。
申し訳なくなった私は、
「先に行ってね。ゴミ拾い中止になったし」
と、少し弱々しい声で言った。
前を歩いていた佳奈がすかさず、
「栞を置いておくわけにはいかないよ」
と、反論した。
「か、佳奈……ありがとう」
私は胸がじんと熱くなった。
隣の汐留くんは、手を差し出して言った。
「ゴミ袋持つよ」
「えっ。いいよ」
汐留くんは首を振った。
「ゴミ拾いは終わった」
--そうだけど……。
私はためらいがちにゴミ袋を渡した。
「ありがとう」
私が言うと、汐留くんは頷いた。
谷口くんは、
「俺、トング持つよ」
と言って、全員分のトングを持ってくれた。
私だけ、とても身軽になってしまった。
汐留くんは、私がいるのと反対側の手に、ゴミ袋を二つ持っていた。
私が滑ったら、支えようとしてくれたのかな。
でも、その姿を見て、絶対に転んではいけないと思った。
汐留くんまで転ばせたら申し訳ない……。
