汐留くんはもちろん、女子たちに手を振ったり投げキッスをしたりといったファンサービスはせず、淡々とコートに入っていく。
「谷口くーん!」
女子の、谷口くんを呼ぶ声に反応して、私はなんとなく谷口くんの方を見る。
ちょうど谷口くんがボールを奪い、そのままドリブルで駆け上がっていくところだった。
汐留くんはバスケ部の助っ人だけど、谷口くんは正式なバスケ部員。
女子が谷口くんの名前を叫ぶのは、聞き慣れている。
けれど、あのハイキングの日以来、私はなんとなく反応するようになってしまった。
集中しよう。
私は再び、自分の練習に意識を戻した。
◇
練習が終わる頃には、学校の外はすっかり暗くなっていた。
学校から出ようとしたとき、
「佐々木さん」
急に声をかけられた。
びっくりして「わっ」と声が出てしまう。
ぱっと振り向くと、谷口くんが立っていた。
私の驚き声に驚いたのか、谷口くんも少し目を見開いていた。
「谷口くん……」
「ごめんね、驚かせて」
「ううん。どうしたの?こんな時間に」
バスケ部は全員帰ったはずなのに。
谷口くんは、自分のスポーツバックを少し持ち上げた。
「忘れ物しちゃって。佐々木さんは?」
「ちょっと練習に残ってたの」
そう答えると、谷口くんが「へー」と頷き、一緒に歩き出した。
今日は午前中に一雨降ったため、アスファルトはまだ湿っていた。ところどころにできた水たまりを避けながら歩く。
「頑張ってるんだね」
--頑張ってる、か……。
私は首を振った。
「そんなことないよ。大会近いだけ」
「佐々木さんたち、大会近いの?うちは他校との練習試合が控えてるよ」
私は苦笑した。
「知ってるよ。女子たちが騒いでたもん。絶対見に行くって」
「へー。佐々木さんは見に来るの?」
