図書室の恋だより〜ただ静かに、君とページをめくりたい〜



次の日の放課後は、委員会のオリエンテーション。

図書委員は、図書室でやることになっている。

終業のチャイムが鳴ると同時に、みんなの話し声や、ガタガタと机や椅子を動かす音が響き始めた。

私はいそいそと教科書などを鞄に詰め込む。

さあ行こう。

そう思って鞄を持ち上げようとした、そのとき――。

「西本さん」

誰かに名前を呼ばれて、顔を上げる。

汐留くんが、私の席の近くに立っていた。 

私は、このとき初めて、汐留くんの顔を真正面から見た。

切れ長な目が私を映している。

確かに綺麗な顔立ちだな‥‥‥とぼんやり考えていると、汐留くんの薄い唇が動いた。

「行こうか」

「え?」

思わず声が出た。

え、今「行こうか」って言ったの?

行こうって……図書室だよね?

別で行くものかと思っていた。

なんの表情もない汐留くんだけど、その目は私をまっすぐ見ていた。

教室の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。

私が驚いて固まっていると、汐留くんは少し首を傾けて言った。

「どこか寄るの?」

私は慌てて首を振る。

「ううん、図書室」

よく分からない返事をしてしまった。

気のせいか、汐留くんの口元が少し緩んだ。

「行こう」

そう言って、歩き出す。

私は鞄の紐を肩にかけ、汐留くんの背中を追いかけた。

ほ、本当に一緒に行くんだ……。

去年の男子とは別々に行ったのに。

そういえば、初めて汐留くんと話をしたかも。

なんだか現実味がなくて、頭の中がふわふわする。


まぁ、でも。

一緒に行くの、きっと今日だけよね。


それにしても……。

さっきから女子たちの突き刺すような視線が、痛い。





図書室は別の校舎にある。

二年生の教室が並ぶ廊下を通ると、女子たちがじろじろとこちらを見ていた。

私はうつむいて、汐留くんの一歩後ろを歩く。

時々、汐留くんに話しかける女子もいたけど、

「委員会だから」

と、汐留くんは短く返した。

階段を降り、渡り廊下を歩くころには人影も少なくなり、私はようやく肩の力を抜いた。

すると、前を歩いていた汐留くんが少し歩く速度を落とし、気づけば私たちは並んで歩いていた。

ーー合わせてくれてる……?

少し戸惑いつつも、私はそのまま歩き続ける。

ペタッ、ペタッ。

私たちの足音だけが妙に大きく響いている。

何か話したほうがいいのかな。

でも、話題が見つからない……。

気まずい時間だけが流れる。

図書室までの道が、いつもより長く感じた。

渡り廊下を通り、階段を上って、ようやく図書室に着いた。

図書室に入るとすでに何人かの生徒が集まっていた。
みんなやっぱり汐留くんのほうをちらちらと見ている。

私たちは図書室のホワイトボードに書かれた座席表を確認し、席へ向かった。

汐留くんの隣に座るのは一瞬ためらった。

でも本人は気にする様子もないので、私もその隣に腰を下ろした。



時間になると、草野先生が出てきて淡々と話し始めた。

草野先生は、中肉中背の四十代半ばの男性だ。

目つきが鋭く、怖がる生徒も多い。

オリエンテーションが終わり、最後に草野先生が

「図書室の本は丁寧に扱うように」

と全員をギロリと見渡した。

図書室にいるほとんどの人たちが、

「は、はい」

と、顔をこわばらせて返事する。



「また明日」

帰り際、汐留くんが私に向かって言った。

「う、うん。また」

と、私は返事をした。

それだけのやり取りのはずなのに、なんだか狐につままれたような気がした。