次の日の放課後は、委員会のオリエンテーション。
図書委員は、図書室でやることになっている。
終業のチャイムが鳴ると同時に、みんなの話し声や、ガタガタと机や椅子を動かす音が響き始めた。
私はいそいそと教科書などを鞄に詰め込む。
さあ行こう。
そう思って鞄を持ち上げようとした、そのとき――。
「西本さん」
誰かに名前を呼ばれて、顔を上げる。
汐留くんが、私の席の近くに立っていた。
私は、このとき初めて、汐留くんの顔を真正面から見た。
切れ長な目が私を映している。
確かに綺麗な顔立ちだな‥‥‥とぼんやり考えていると、汐留くんの薄い唇が動いた。
「行こうか」
「え?」
思わず声が出た。
え、今「行こうか」って言ったの?
行こうって……図書室だよね?
別で行くものかと思っていた。
なんの表情もない汐留くんだけど、その目は私をまっすぐ見ていた。
教室の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。
私が驚いて固まっていると、汐留くんは少し首を傾けて言った。
「どこか寄るの?」
私は慌てて首を振る。
「ううん、図書室」
よく分からない返事をしてしまった。
気のせいか、汐留くんの口元が少し緩んだ。
「行こう」
そう言って、歩き出す。
私は鞄の紐を肩にかけ、汐留くんの背中を追いかけた。
ほ、本当に一緒に行くんだ……。
去年の男子とは別々に行ったのに。
そういえば、初めて汐留くんと話をしたかも。
なんだか現実味がなくて、頭の中がふわふわする。
まぁ、でも。
一緒に行くの、きっと今日だけよね。
それにしても……。
さっきから女子たちの突き刺すような視線が、痛い。
◇
図書室は別の校舎にある。
二年生の教室が並ぶ廊下を通ると、女子たちがじろじろとこちらを見ていた。
私はうつむいて、汐留くんの一歩後ろを歩く。
時々、汐留くんに話しかける女子もいたけど、
「委員会だから」
と、汐留くんは短く返した。
階段を降り、渡り廊下を歩くころには人影も少なくなり、私はようやく肩の力を抜いた。
すると、前を歩いていた汐留くんが少し歩く速度を落とし、気づけば私たちは並んで歩いていた。
ーー合わせてくれてる……?
少し戸惑いつつも、私はそのまま歩き続ける。
ペタッ、ペタッ。
私たちの足音だけが妙に大きく響いている。
何か話したほうがいいのかな。
でも、話題が見つからない……。
気まずい時間だけが流れる。
図書室までの道が、いつもより長く感じた。
渡り廊下を通り、階段を上って、ようやく図書室に着いた。
図書室に入るとすでに何人かの生徒が集まっていた。
みんなやっぱり汐留くんのほうをちらちらと見ている。
私たちは図書室のホワイトボードに書かれた座席表を確認し、席へ向かった。
汐留くんの隣に座るのは一瞬ためらった。
でも本人は気にする様子もないので、私もその隣に腰を下ろした。
時間になると、草野先生が出てきて淡々と話し始めた。
草野先生は、中肉中背の四十代半ばの男性だ。
目つきが鋭く、怖がる生徒も多い。
オリエンテーションが終わり、最後に草野先生が
「図書室の本は丁寧に扱うように」
と全員をギロリと見渡した。
図書室にいるほとんどの人たちが、
「は、はい」
と、顔をこわばらせて返事する。
「また明日」
帰り際、汐留くんが私に向かって言った。
「う、うん。また」
と、私は返事をした。
それだけのやり取りのはずなのに、なんだか狐につままれたような気がした。
