ペアの男子があまりやる気がないのをいいことに、どうせ誰も見ないならと、好きな本を好きなだけ語った。
特に夏休み前の図書室だよりは良かった。
夏休みに読みたい本特集で、たくさんおすすめの本を書いた。
他の学年やクラスの人も担当するので、年に数回しか書く機会がないのは少し残念だけど。
それでも、目立たない場所で、自分の「好き」を語れる場所があるのは嬉しかった。
けど、それを本当に読んでくれる人がいるなんて--。
渡り廊下を渡り終え、私と汐留くんは階段を登っていく。
「実際、何冊か読んだよ」
「そうなの?」
「そんなにお勧めしてくれるならって」
階段の踊り場に出る。
「西本さんが『読書が苦手な人にも読みやすい』って書いていた本を読んだ。ミステリーだった」
ミステリー……。
「面白かったよ」
しばらく歩いて、私は立ち止まった。
もう図書室の前まで来ていた。
相変わらず、人気のない図書室。
一歩先を歩いていた汐留くんも立ち止まり、私を振り返った。
汐留くんの背後には、図書室の緑色の掲示板があった。
余白の多い、どの学年が担当か分からない図書室だよりがちらりと見える。
私はそこから目を逸らし、やがて口を開いた。
「私は‥‥‥」
汐留くんの話を聞いているうちに、ふいに胸の奥から何かが込み上げてきた。
今まで誰にも話せなかった。
佳奈や由梨にさえ。
それなのに、なぜか今、どうしても汐留くんに聞いて欲しかった。
「本当に、ただただ好きな本について、好きなように書いただけ。
いっぱい書いたのは、ただの自己満足なの」
汐留くんはただ黙って聞いていた。
「でも、心のどこかで、ずっと誰かに伝えたかったんだと思う。
『この本いいよ』、『読んでみて』って。
好きな本を誰かと共有したかった」
いつの間にか、私は拳を固く握りしめていた。
