私は緊張しながら、少し頭を下げた。
「じゃあ、みんなそろったし、行こうか」
谷口くんの言葉に、みんなで歩き出す。
境内には出店がたくさん並び、活気にあふれていた。
焼きそばのソースの香りや、りんご飴の甘い匂いが漂っている。
人は多いけど、ぎゅうぎゅうになるほどではなく、普通に歩く分には余裕があった。
それでも慣れない人混みと、いつもと違うメンバーという緊張感に、少し頭がくらくらする。
私はなんとか佳奈と並んで歩く。
「すごーい、楽しそう!焼きそばいいなあ。後で食べようかな」
お祭りの喧騒に気圧されている私とは対照的に、佳奈は嬉しそうにはしゃいでいる。
ふと、谷口くんと前を歩いていた汐留くんが、こちらを振り向いた。
目が合って、どきりとする。
汐留くんは斜め前を指さして言った。
「西本さん、あれ」
私は、汐留くんが指差した方を見る。
「草野先生‥‥‥」
思わず呟いた。
「えっ、本当だ」
佳奈も驚きの声を上げる。
草野先生が、たこ焼き屋の前に並んでいた。
いつもの格好ではなく、お祭りらしい浴衣姿で、小学生くらいの女の子と手をつないでいる。
その隣には女性がいた。奥さんかな。
そして、なんと草野先生、笑っている。
驚いた‥‥‥。
草野先生が笑っているところ、初めて見た。
私は汐留くんとしばらく顔を見合わせ、なんとなく笑い合った。
佳奈が谷口くんと話し始めたので、私は汐留くんと並んで歩く。
汐留くんと話をするのは久しぶりだった。
いつもと違う場所で、いつもと違う格好で並んで歩いているのが、なんだか不思議で、どきどきしてしまう。
お祭りのにぎやかな声が、どこか遠くに聞こえた。
汐留くんが口を開く。
「俺、草野先生はみんなが言うほど、怖い先生じゃないと思う」
「どうしてそう思うの?」
「図書委員になって、一度草野先生に『騒がしくしてすみません』って謝ったことがあって」
「そうなの?」
初耳だった。
