禁忌の花 〜最強になったらイケメン寄ってきた〜

「アイリー!」


静かな森に、聞きなれた声が響いた。

空の光が、白いページの上で揺れている。
私は家から少し離れた森の奥にある、大きな木の根元に座っていた。

膝の上には一冊の本。風が吹くたび、髪が頬を撫でていく。


……あと少しで読み終わるとこだったのに。


「ねぇ、アイリ!これ見て!!」

「……聞こえてるよ、ルカ」


顔を上げると、こっちへ駆け寄ってくる姿が見えた。
ふわふわの金髪を風になびかせながら、満面の笑みを浮かべている。

私の幼馴染___ルカ。

七歳になった今でも、ルカは昔から何も変わらない。
好奇心旺盛で、落ち着きがなくて。そして、とにかく私に付きまとってくる。


「これ!見つけたんだ!」


そう言って、ルカは一冊の本を私の目の前に突き出した表紙には『悪の伝説』とでかでか書かれている。


……なんとまぁ胡散臭い。


「アビス奴らって、頭切り落とすと死ぬらしいよ!」

「……」

「あとね!三日間、人を食べなかったら死ぬんだって!」

「……」

「それから___」

「ルカ」

「ん?なに?」

「今、私読書中なの見えてる?」

「見えてる!」

「じゃあ、あとにして」

「えー!やだ!」


即答か。……本当に、この子は。

思わず小さくため息が漏れる。


ルカが夢中になっている『アビス』。
人を襲い、人を喰らい、夜になると街を彷徨う___そんな恐ろしい悪の組織として、この本には書かれている。

けれど、私たちの住むこの街で、アビスを見た人なんて一人もいない。

森に囲まれた小さな街。
魔物こそ時々現れるけど、それ以外は穏やかで、少なくとも私の知る限り、アビスなんてものは___ただの子供向けのおとぎ話だった。