もう、裏切られたくない。
傷付けられたくない。
「……真緒ちゃん?」
私の手に触れて、指を絡めて、遊んでいた葵くんに呼ばれた。
「ん……?」
「今、何考えてるの?」
「……葵くんの事だよ。」
「口が上手いね。」
「ほんと。嘘じゃない。」
「真緒ちゃん、別れよっか。」
「……。」
「俺が強引だった。」
「……。」
「心に土足で踏み込んで……。」
「……。」
「笑わなくなったよ。楽しそうじゃない。」
「……。」
「俺は真緒ちゃんを笑顔に出来ないし、幸せにも出来ない。」
「……どうして今更、そんな事言うの……?」
私の心を散々掻き乱して。
もう、元の自分には戻れない。
俯いてた顔を上げて、葵くんの目を見た。
哀しげな目で、私を見ていた。
……今、分かった。
キスは衝動なんだ。
キスというよりは、ぶつかる感じになった。
驚きに目を見開いた。
慰めてあげたいと、思った。
いつ好きになったなんて、覚えてなかったけど、一目惚れだった、のかもしれない。
入学式の日。
壇上に上がり、新入生代表挨拶をした泉宮葵に。
唇を離して、正面から目を見つめた。
「……“泉宮くん”みたいになりたいと思った。背筋が伸びていて、堂々としていて、同じ新入生とは思えなかった。」
「……。」
「“泉宮くん”は教室で話し掛けてくれて、自己紹介をして握手を求めてくれた。海外に住んでた時の癖だって。私が海外に行った経験がない、飛行機に乗った事もないって、話しても馬鹿にせずに、これから新しい体験をする、楽しみが沢山あって良いねって、言ってくれて嬉しかった。」
「……。」
「欲しい言葉をくれて、これまで、どんな努力をしてきたのかなって、気になった。」
「……。」
「私には想像もつかないくらい、頑張って……、」
「……。」
「今の泉宮葵に。」
距離が近くと意識して、話せたら嬉しくて。
緊張するけど、嫌じゃなかった。
体が指先が触れ合いそうになるだけで、心臓がドキドキして高鳴った。
「ずっと、見てたいって。この先、どんな人生を歩んでいくのか、」
「……。」
「隣を歩くのが、私だったら良いなって、あの時、そう思った。」
涙が溢れて、止まらなくなった。
「泣かないで、“入夏さん”。」
真緒ちゃんより、何度もそう呼ばれた。
「俺はね、初めて目が合った時に顔を赤くして、それを必死に隠そうとしてるのが、可愛いと思った。」
抱き締められて、顔は見えない。
「可愛い子だな、仲良くなりたいなって、声を掛けた。格好悪いけど、ナンパだね。」
「……ナンパ。」
「うん。自分から初めて、声を掛けた。この子の事を知りたい。何が好きで、何をしたら喜んで、笑ってくれるかなって。知れば知る程、もっと知りたくなった。……愛してる。俺にとって、何よりも大切な存在だよ。」



