「ここから駅までどうやって行くんだろう亅
下校中、バス停の前で困ったような顔を浮かべる男の人が目に入った。
この街に住んでいる徹はもちろんこの場所から駅までの道のりを知っている。
でも徹は男の人を尻目に知らない顔をして、水たまりを避けるように通り過ぎる。
良心が痛んだ。
けどこの雨だ、ここで長居いようものなら傘をさしていても濡れてしまうだろう。
というのは建前に過ぎず、わざわざ知らない人に恩を売るほど行動力がない自分を認めたくなかった。
ひどい雨だったその日は部屋の整理をしていた。
「…これは?」
ほこりのかぶった棚の中から徹は一つの紙を手に取った。
『ぼくのなりたい人』
歪んだ文字でそう書かれた作文用紙は昔自分が書いた作文だった。
「懐かしいな」
妙に気になった徹はタイトルに続く文に目を通していった。
『こまっている人がいたらたすけたいです。』
『人をえがおにしたいです。』
何気ない一言一言が徹の心に刺さった。
読んでいて恥ずかしい。
いつからだろう、困っている人を見て見ぬふりをするようになったのは。
いつからだろう、他人を助けることを「めんどくさい」と思うようになったのは。
社会っていうのは薄情者だ。
道徳では人を助けろと言うくせに社会は行動に常に利益を求めて成り立っている。
「何がしたいんだろうな俺は」
めんどくさいと思っているはずなのにこんな昔の自分の言葉に揺れ動く自分がすこし気持ち悪かった。
部屋にはただ雨の音だけが響いていた。
少し気分が悪くなって作文を閉じようとした。
その時だった。
最後に書かれたその一文に徹は大きく目を見開いた。
不覚にも徹は笑ってしまった。
次の日、徹はまた同じ道を帰っていた。
「このバスどこまで行くんだろう」
旅行に来たのであろう男の人2人がバス停の前でたたずんでいた。
徹は足を止め、昨日のことを思い出した。
『じぶんが楽しいとおもえることをやりたいです』
最後にはこう書かれていた。
いかにも子どもらしい言葉。
でも、今の徹に考えさせるには十分すぎる言葉だった。
果たして、今自分は社会の常識に乗っ取り大人になろうとして楽しいのだろうか、と。
そうだ。自分は逃げていたのだ。
いつだって変えようとすれば変えられたはずなのに。
それすらも社会のせいにして逃げていた。
どこまで他責思考なのだろう。
けれど、その一文はそんな反省と共に少しの勇気も与えてくれた。
徹は二人の男の人に向きなおった。
そして水たまりに向かって確かな一歩を踏みしめた。
「あの、良かったらーーー」
昨日からやまない雨はまだ続きそうだ。
でも、その先に一筋わずかに、けれどまばゆく輝く光が雲から差し込んでいるのを徹ははっきりと捉えていた。
下校中、バス停の前で困ったような顔を浮かべる男の人が目に入った。
この街に住んでいる徹はもちろんこの場所から駅までの道のりを知っている。
でも徹は男の人を尻目に知らない顔をして、水たまりを避けるように通り過ぎる。
良心が痛んだ。
けどこの雨だ、ここで長居いようものなら傘をさしていても濡れてしまうだろう。
というのは建前に過ぎず、わざわざ知らない人に恩を売るほど行動力がない自分を認めたくなかった。
ひどい雨だったその日は部屋の整理をしていた。
「…これは?」
ほこりのかぶった棚の中から徹は一つの紙を手に取った。
『ぼくのなりたい人』
歪んだ文字でそう書かれた作文用紙は昔自分が書いた作文だった。
「懐かしいな」
妙に気になった徹はタイトルに続く文に目を通していった。
『こまっている人がいたらたすけたいです。』
『人をえがおにしたいです。』
何気ない一言一言が徹の心に刺さった。
読んでいて恥ずかしい。
いつからだろう、困っている人を見て見ぬふりをするようになったのは。
いつからだろう、他人を助けることを「めんどくさい」と思うようになったのは。
社会っていうのは薄情者だ。
道徳では人を助けろと言うくせに社会は行動に常に利益を求めて成り立っている。
「何がしたいんだろうな俺は」
めんどくさいと思っているはずなのにこんな昔の自分の言葉に揺れ動く自分がすこし気持ち悪かった。
部屋にはただ雨の音だけが響いていた。
少し気分が悪くなって作文を閉じようとした。
その時だった。
最後に書かれたその一文に徹は大きく目を見開いた。
不覚にも徹は笑ってしまった。
次の日、徹はまた同じ道を帰っていた。
「このバスどこまで行くんだろう」
旅行に来たのであろう男の人2人がバス停の前でたたずんでいた。
徹は足を止め、昨日のことを思い出した。
『じぶんが楽しいとおもえることをやりたいです』
最後にはこう書かれていた。
いかにも子どもらしい言葉。
でも、今の徹に考えさせるには十分すぎる言葉だった。
果たして、今自分は社会の常識に乗っ取り大人になろうとして楽しいのだろうか、と。
そうだ。自分は逃げていたのだ。
いつだって変えようとすれば変えられたはずなのに。
それすらも社会のせいにして逃げていた。
どこまで他責思考なのだろう。
けれど、その一文はそんな反省と共に少しの勇気も与えてくれた。
徹は二人の男の人に向きなおった。
そして水たまりに向かって確かな一歩を踏みしめた。
「あの、良かったらーーー」
昨日からやまない雨はまだ続きそうだ。
でも、その先に一筋わずかに、けれどまばゆく輝く光が雲から差し込んでいるのを徹ははっきりと捉えていた。
