闇に堕ちた私たちは再び前を向く

「だ、だめ…お兄ちゃん…!!」

私は涙を流し続けた。
ベッドには衰弱しきった兄が、今にも死にそうな顔で横たわっていた。

「死なないでよ…お兄ちゃん…!!」

どれだけそうすがっても、兄の死は覆らないものとなってしまった。
もう、手遅れなのだ。
お兄ちゃんは私に手を伸ばし、そして優しく頬を撫でた。

「雲華(もか)…ごめん…な…。最後に、聞いてほしい…ことが…あるんっ…だ」

息も途切れ途切れな兄がそう口にした。

「や、やだ…最後なんで言わないで…!」

私は頬に触れた兄の手を強く握った。
もう、手もずいぶんと冷たくなっている。

「お願い…だ。聞いてくれ」

強く、そう言われて私は言葉を失った。
それから、ゆっくりと言葉が紡がれる。

「俺は…トップアイドルになりたかったんだ…。でも、まだなれてない…。未練ばっかり…さ。でも、雲華がいる。身勝手なのはわかってる…が、どうか…どうか…俺の夢を…叶えてくれ」

涙が溢れて、溢れて——。
私は強く頷いた。

「うん…うん…!私、絶対お兄ちゃんの夢、叶えて見せるよ…!!」

私がそう言うと、お兄ちゃんはふっと笑みをこぼした。

「ありがとう。最後まで…守ってやれなくてごめん…な……。雲華、強く生きろ」

その言葉とともに、兄の手から力が抜けた。

「先生、心肺停止です…!!」

看護師の大きな声が響き、自覚をした。

——お兄ちゃんは死んだんだ。

お兄ちゃんと過ごしたあの日々を思い出して、私は涙が止まらなかった。
“強く生きろ”と言う言葉が、私の胸には響いた。

「お姉ちゃん…」

後ろで私と同じように妹の紫雨(しぐれ)が泣いている。
学校から急いで帰ってきたのであろうが、間に合わなかったのだ。
私はそんな紫雨の手を握って言った。

「お兄ちゃんは言ってたよ。強く生きろって。私たちが、お兄ちゃんのぶんまで頑張って生きよう。私…私、お兄ちゃんの夢を叶える」

私はここで誓った。
自分の人生全て、兄のために生きようと。
私の物語の原点はここにあった。

——これは、兄を失った奇病持ちの少女と禁忌を犯した少年の、切なくて希望に溢れたお話。