【電子書籍化記念SS】あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 制服はグレーのブレザーにベスト、そしてプリーツスカート。水色のブラウスに校章の入ったネクタイを締める。

 ブレザーの襟や袖口、スカートの裾にネクタイと同色のラインが入っている、オシャレなものだ。

 そして、紺色のハイソックスにローファーまであり、里穂は慎吾の用意周到さに驚いた。

 服の裏地には「リース品」との刺繍と、シリアルナンバーを記したタグが縫い付けられている。
 慎吾の説明によると、受験生や卒業生たちに『リアルスクールライフ』を実感してもらうため、貸し出しているのだという。

「出かけようか」

 我が子を抱っこした慎吾を見て、里穂は目が丸くなる。
 驚いたことに、彼も制服を着ていた。
 里穂が着用している学校の、男子用のものだろう。

 かっこいい!
 里穂は素直に思った。

 絶対、慎吾はモテまくったスクールカースト上位男子だったに違いない。
 ……自分は、クラスの片隅で彼にひっそり焦がれている女子だろう。

「アラサーのわりには、二人とも似合っているよな」

 こくこくこく。
 里穂はまっかになりながら、頷く。

「でも、車で移動するのね……」

 里穂は後ろに我が子と乗り込みながら呟く。
 車の中だけ現在で、タイムスリップしたような気分である。

「ああ。電車で移動して里穂に惚れる野郎がいたら、たまらないからな」

 ないないと否定しておく。

「そんなことより、慎吾。学生時代、絶対にラブレターとかもらったでしょ?」

 ちりちりと嫉妬が胸を灼く。

「そんなにはもらってない」

 との返事に、むうと膨れっつらをしてみせた。
 赤信号になって、バックミラーを慎吾が愉快そうに見る。

「高校の頃、里穂に背中にキスされてたら、全部断ってたよ」

 断言されて、里穂は照れた。はにかみながら囁く。

「……だと、いいな」

 バックミラー越しに頬を染めた里穂を見て、慎吾が唸る。

「抱き足りない」

 ぼそりと吐かれた言葉は、全力で聴こえないふりをした。


 到着したのは、慎吾の実家だった。