【電子書籍化記念SS】あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

「いまどきは『スクールメイク』らしい」

 慎吾がひょい、と洗面所に顔を覗かせる。

「って、なに?」
「まかせろ」

 自信満々な慎吾の指の合間には、色々なコスメグッズが挟まれている。
 敏腕のメイクアーティストみたいで、里穂は微笑んだ。

 三十分後。

「わあ……」

 里穂は鏡の中の自分を見つめた。

 以前の職場、皇彩で清掃係だった頃は、ドラッグコスメだったが清潔感を第一にしていた。

 今、エスタークホテルではお客様に見られている場面も多々あり、メイクアップ教室で教わったホテルメイクをしている。

 三人で出かけるときはすっぴんだ。

「どうだ、この抜け感のある素肌感!」

 自慢げな慎吾の言葉通り、肌の透明感が半端ない。
 健康的な生活をしているので、肌はしっとりしている。なによりも幸せなので、内面から光り輝いているようだ。

「……高校に行ってたら、こんなだったのかな……」

 里穂は鏡の中の自分から目を離せずに、ポツリと呟いた。

 人生に『たられば』はないけれど……、里穂は密かに思う。
 両親が生きていてくれていて、経営していた旅館が火事で焼けていなければ、天真爛漫なままでいられたのかもしれない。

「だと思う」

 慎吾が腰を屈めて、里穂の肩にあごを乗せてきた。
 
「俺は今の里穂がだーい好きだけど」

 ちゅ、と耳もとにキスされた。

 彼の言葉に、さらに気持ちが上昇した。
 そうだ。
 高校生のときより、今が遥かに幸せであることは間違いない。
 里穂はにっこりと微笑みながら、制服をあてて鏡を確認する。