そこにあったはずの愛

番外編10-8「大湊凪」第八話「本当の絆」

数週間ぶりに、凛から連絡が来た。

 

『今度、時間ある? 話したいことがあって』

 

短いメッセージに、少し、安堵した。

 

 

指定されたカフェに向かうと、凛が、すでに席についていた。

 

「久しぶり」

 

顔を上げた凛の表情に、以前とは違う、穏やかさがあった。

 

「久しぶり。元気そうだな」

 

「うん、色々あったけど」

 

 

向かいに座ると、凛が、少し照れたように話し始めた。

 

 

「全部、話した。玲依さんに」

 

「全部?」

 

「うん。施設のこと、貧しかったこと、実家暮らしって嘘ついてたことも」

 

 

その言葉に、胸の奥が、じんわりと温かくなった。

 

「そっか」

 

「玲依さん、探しに来てくれたんだ。仕事、辞めてまで」

 

 

「知ってる」

 

思わず、そう漏れた。

 

 

凛が、少し驚いた顔をした。

 

「知ってるって」

 

「玲依さん、俺のところにも来たから」

 

 

その言葉に、凛の目が、大きく見開かれた。

 

「凪のところにも?」

 

「うん。SNSで連絡来て、直接会って話した」

 

 

「なんで、教えてくれなかったんだよ」

 

 

軽い口調だったけれど、その奥に、少しの驚きが滲んでいた。

 

「言うタイミング、逃してた」

 

正直に、そう答えた。

 

 

「あの時、玲依さんに聞いたんだ」

 

続けて、話した。

 

「凛のこと、本当に好きですか、って」

 

 

凛が、じっと、こちらを見つめた。

 

「なんて、答えてた?」

 

 

その時のことを、思い出しながら、続けた。

 

「仕事を辞めてでも、探し出したい相手です、って。迷いなく」

 

 

凛の表情が、静かに、崩れていった。

 

 

「その一言で、分かったんだ」

 

淡々と、けれど、確かな実感を込めて、続けた。

 

「玲依さんが、本気で、凛のこと大事に思ってるって」

 

 

「あの覚悟、ひしひし伝わってきた」

 

 

凛が、しばらく、黙っていた。

 

やがて、小さく、声を漏らした。

 

「玲依さん、本当に、探しに来てくれたんだ」

 

 

呟くような、けれど、確かな喜びのこもった声だった。

 

 

「ありのままの俺のこと、受け入れてくれた」

 

続けて、少し声を震わせながら、話した。

 

「金づるのふりしてたことも、貧しかったことも、全部知って、それでも」

 

 

「良かったな」

 

心から、そう思った。

 

 

十年前の約束から、施設での日々、そして、あの日の切実な本音まで、色々な記憶が、頭の中を巡った。

 

「今の自分、知られたら、幻滅されると思う」

 

そう言っていた凛が、今、こうして、心から安堵した表情をしている。

 

 

「凪にも、迷惑かけた」

 

凛が、改めて、頭を下げた。

 

「実家暮らしとか、幼稚園からとか、嘘、合わせてもらって」

 

 

「別に、いいよ」

 

軽く、手を振った。

 

「幼馴染だし、それくらい」

 

 

「これから、玲依さんにも、ちゃんと本当のこと、話していい?」

 

凛が、少し照れたように、そう聞いてきた。

 

「もちろん」

 

 

「施設で一緒だったことも、ちゃんと話す」

 

「うん。それがいい」

 

 

二人で、しばらく、笑い合った。

 

 

十年前、施設の玄関先で交わした約束。

あの日から、随分、遠回りをした。

 

けれど、こうして、本当の絆が、ようやく形になった。

 

 

幼馴染としての繋がりと、玲依さんとの確かな想い。

 

その両方が、今、凛の中で、しっかりと根を張り始めているのが、はっきりと伝わってきた。