そこにあったはずの愛

番外編10-7「大湊凪」第七話「玲依が来た日」

その日、見覚えのないアカウントから、メッセージが届いた。

 

『突然、ごめんなさい。凪くん、覚えてますか。玲依です』

 

 

凛のSNSを辿って、探し当てたのだろう。

文面から、切羽詰まった空気が伝わってきた。

 

 

『凛が、いなくなってしまって。何か、知っていることがあれば、教えてもらえませんか』

 

 

その一文に、心臓が、大きく跳ねた。

 

 

やっぱり。

 

そんな言葉が、頭の中を占めた。

 

 

以前、二人きりで話した時のことを、思い出した。

 

「今の自分、知られたら、きっと、幻滅されると思う」

「玲依さんと、釣り合わない自分を、見せたくないんだ」

 

あの日の、切実な声。

いつか、この歪みが、何か大きな形になって表れるんじゃないかという、あの予感。

 

それが、こんな形で、現実になった。

 

 

けれど、すぐには、返信できなかった。

 

凛との約束が、頭をよぎった。

 

実家暮らしだということ、幼稚園からの付き合いだということ。

その嘘に、まだ、縛られている。

 

本当の事情を、勝手に話すわけにはいかなかった。

 

 

しばらく考えて、直接、会って話すことにした。

 

指定されたカフェに、玲依が、少し疲れた様子で現れた。

 

 

「わざわざ、すみません」

 

深く頭を下げる玲依に、慌てて、首を振った。

 

「いえ。俺で、力になれるか分からないですけど」

 

 

「凛から、何か、聞いてないですか」

 

「最近まで、普通に連絡取ってました。でも、この数日は、返信もなくて」

 

 

正直に、そう答えた。

 

嘘はついていない。

けれど、知っていることの全部を、話しているわけでもなかった。

 

 

「実家に、連絡しようと思ったんですけど」

 

玲依が、言葉を続けた。

 

「住所も、連絡先も、知らなくて。ご両親にも、一度も、会わせてもらえなかったので」

 

 

その言葉に、少し、心が痛んだ。

 

実家暮らしという嘘が、こんなところで、探す手がかりを塞いでいるのだと、遅れて気づいた。

 

 

「あの」

 

思いきって、聞くことにした。

 

「玲依さんは」

 

 

言葉を、選んだ。

 

「凛のこと、本当に、好きですか」

 

 

唐突な問いに、玲依が、少し目を見開いた。

 

 

けれど、迷う様子は、なかった。

 

 

「仕事を辞めてでも、探し出したい相手です」

 

 

即答だった。

 

その声に、迷いも、飾りも、感じられなかった。

 

 

その答えに、胸の奥が、静かに緩んでいった。

 

 

これまで、幼馴染として、心のどこかで、疑っていた部分があった。

噂に振り回されて、凛が、都合よく利用されているだけなんじゃないか、と。

 

けれど、今の一言で、その疑いは、きれいに消えていった。

 

 

「凛は、たぶん」

 

慎重に、言葉を選びながら、続けた。

 

「玲依さんに、知られたくないことが、色々あるんだと思います」

 

「それでも、玲依さんになら、いつか、ちゃんと話せる気がします」

 

 

具体的なことは、明かせなかった。

けれど、それだけは、伝えたかった。

 

 

「ありがとう」

 

玲依が、静かに、そう言った。

 

 

「見つけたら、絶対、逃がさないので」

 

その一言に、力強さが滲んでいた。

 

 

その決意を聞きながら、確信めいたものが、胸に広がっていった。

 

 

きっと、大丈夫だ。

 

この人になら、あの不器用な幼馴染の、本当の姿を、委ねてもいい。

 

 

そう、静かに思った。