そこにあったはずの愛

番外編10-5「大湊凪」第五話「三年越しの報告」

あれから、三年が経っていた。

 

凪とは、メッセージのやり取りだけは、途切れずに続いていた。

けれど、直接顔を合わせるのは、実は、あの日以来、数えるほどしかなかった。

 

バイトに追われ、玲依のために時間を作ることで精一杯だった三年間。

幼馴染との時間を、後回しにし続けていた自覚はあった。

 

 

「久しぶり」

 

待ち合わせのカフェに入ると、すでに凪が座っていた。

 

「久しぶり」

 

向かいに腰を下ろすと、凪が、じっと、こちらの顔を見つめてきた。

 

 

「なんか、いいことあった?」

 

不意に、そう聞かれた。

 

「なんで分かるの?」

 

「顔、見れば分かる」

 

凪が、少し笑った。

 

「三年前より、ずっと、穏やかな顔してる」

 

 

その指摘に、少し驚いた。

 

三年前、あの公園で話した時の自分は、まだ、どこか張り詰めていた。

玲依への想いを、必死に隠しながら生きていた。

 

 

「実は」

 

思いきって、切り出した。

 

「玲依さんと、ちゃんと恋人になった」

 

 

凪が、目を見開いた。

 

「マジで?」

 

「うん」

 

 

「あの時、お前、『今のままでいい』とか言ってたのに」

 

からかうような口調。

 

「あれ、絶対、嘘だと思ってた」

 

 

「バレてた?」

 

「バレバレだったよ」

 

 

苦笑しながら、あの日のことを思い出した。

 

「いつか、って言った時のお前の顔、忘れらんない」

 

凪が、続けた。

 

「今のままでいいって言いながら、全然、そう見えなかったから」

 

 

その言葉に、少し照れくさくなった。

 

「あの頃は、まだ、伝える勇気もなかったから」

 

正直に、そう答えた。

 

 

「三年前、金づるのふりして近づいたって話、したじゃん」

 

「うん」

 

「あれから、少しずつ、変わっていったんだ。俺も、玲依さんも」

 

 

これまでの経緯を、かいつまんで話した。

 

条件付きの、体だけの関係。

その中で、少しずつ育っていった想い。

玲依が、初めて弱さを見せてくれた夜のこと。

そして、ようやく、お互いの気持ちを、言葉にできた日のこと。

 

 

凪は、時々相槌を打ちながら、静かに耳を傾けていた。

 

 

「長かったな」

 

全部聞き終えて、凪が、しみじみと呟いた。

 

「うん。長かった」

 

 

「良かったな、本当に」

 

その一言に、目の奥が、少し熱くなった。

 

 

「それで」

 

凪が、少し身を乗り出した。

 

「今度こそ、紹介してくれよ」

 

 

その言葉に、迷いなく頷いた。

 

「うん。今度こそ、ちゃんと紹介する」

 

 

三年前、あの公園で、言葉を濁したことを思い出した。

 

あの時は、まだ、自分の想いにさえ、確信が持てずにいた。

 

 

「幼馴染として、ちゃんと祝福させてくれ」

 

凪の言葉に、また、頷いた。

 

 

十年前の約束から、さらに三年。

長い時間をかけて、ようやく、すべてが繋がろうとしていた。

 

 

幼馴染としての絆と、玲依との確かな想い。

その両方を、これから先も、大切に抱えていきたいと、静かに思った。