そこにあったはずの愛

番外編9-2「クリスマスの夜」凛編

クリスマスは、稼ぎ時だった。

 

短期のピザデリバリーのバイトを、迷わず入れた。

時給も、いつもよりいい。

 

シフトを確定させてから、ふと気づいた。

 

玲依に、会えない。

 

 

一瞬、指が止まった。

 

けれど、すぐに、思い直した。

 

 

玲依が、こんな特別な日に、自分に抱かれたいと思うだろうか。

 

そんなはずはない。

契約は、そういうものじゃなかった。

 

 

ただ一緒にいたい、なんて。

そんな言葉、口が裂けても言えなかった。

 

行けば、結局、抱かなきゃいけない。

それが、この関係のルールだった。

 

 

バイトを入れて、良かった。

 

自分に、そう言い聞かせた。

 

 

配達用のバイクに跨り、街を走った。

 

イルミネーションの光が、視界の端を流れていく。

浮かれた雰囲気の中、一軒一軒、ピザを届けて回った。

 

 

「メリークリスマス!」

 

明るい声で迎えてくれる家族。

温かそうな部屋の灯り。

幸せそうな光景を、玄関先で何度も目にした。

 

 

その度、なぜか、玲依の顔がちらついた。

 

一人で、あの部屋にいるのだろうか。

何をしているのだろうか。

 

考えても、仕方のないことだった。

 

 

配達の合間、スマホの画面を、何度も確認した。

 

連絡は、来ていなかった。

来るはずがない、と分かっていたはずなのに、確認せずにはいられなかった。

 

 

早く上がれたら、行こうか。

 

そんな考えが、ふと頭をよぎった。

 

 

何を、バカなことを。

 

すぐに、自分を戒めた。

 

行ったところで、意味なんてない。

契約に、余計な感情を持ち込むべきじゃなかった。

 

 

けれど、その考えは、何度追い払っても、また戻ってきた。

 

配達を終えて、次の家へ向かう道すがら、頭の中では、ずっと同じ問いが巡っていた。

 

 

会いたいのか。

会いたいわけじゃない。

 

けれど、会いたくないわけでも、なかった。

 

 

自分でも、うまく整理のつかない感情を抱えたまま、シフトは深夜まで続いた。

 

 

最後の配達を終えた頃には、日付が変わりかけていた。

 

もう、今更、行ける時間じゃない。

 

そう自分に言い聞かせながら、バイクを漕ぐ足に、力を込めた。

 

 

イルミネーションの光が、ゆっくりと後ろに流れていく。

 

その光の中を、一人、走り続けた。

 

 

玲依も、きっと、今頃は寝ているだろう。

 

そう思いながらも、頭の片隅では、まだ、あの部屋の明かりのことを、考え続けていた。