番外編1「壊せない関係」凛編
出会って、もう一年が経とうとしていた。
玲依のマンションを訪れるのは、もう何度目か分からない。
いつものように、玄関を開けると、すでにシャワーを終えた玲依が待っていた。
「シャワー浴びてきて」
短い言葉。
儀式のように繰り返される、いつもの流れだった。
浴室に入り、シャワーを浴びる。
一人になる、この数分間。
いつからか、この時間だけが、妙に頭が冴えるようになっていた。
これで、本当にいいのか。
シャワーの音に紛れて、そんな問いが、頭の中で繰り返される。
金づるのふりをして、この関係に入り込んだ。
軽い男を演じて、本気だと思われないように、ずっと自分を偽ってきた。
けれど、本当は。
出会った瞬間から、誰よりも、この人に惹かれていた。
その事実を、誰にも、玲依本人にすら、言えずにいる。
言えば、壊れてしまう気がした。
この、辛うじて成り立っている関係が。
体だけの繋がり。
条件だけで結ばれた、歪んだ形。
それでも、繋がっていられることの方が、今は大事だった。
シャワーを止めて、体を拭く。
鏡に映る自分の顔を、しばらく見つめた。
こんな顔で、あの人の前に立っているのか。
本音を隠したまま、平気な顔で。
部屋に戻ると、玲依が、ベッドの端に座っていた。
いつも通りの、感情の読めない表情。
けれど、その奥に、微かな疲れのようなものが滲んでいる気がした。
近づいて、頬に手を伸ばす。
指先が、肌に触れる寸前。
もし今、少しでも嫌がる素振りを見せてくれたら。
そうすれば、止まれるのに。
この関係を、これ以上進めなくて済むのに。
そんな考えが、一瞬、頭をよぎった。
けれど、玲依は、何も拒まなかった。
ただ静かに、目を伏せるだけ。
その従順さが、かえって胸を締めつけた。
拒まれない代わりに、望まれてもいない。
そんな気がしてならなかった。
この人は、何を思って、自分を受け入れているのだろう。
体だけの契約を、どんな気持ちで守っているのだろう。
問いたくても、問えなかった。
問えば、答えを聞くことになる。
その答えが、今の均衡を、壊してしまうかもしれないから。
頬に触れた指先を、そのまま滑らせる。
輪郭をなぞりながら、心の中では、まったく違うことを考えていた。
いつか、この歪んだ関係は、終わるのだろうか。
それとも、このまま、歪んだままでも、続いていくのだろうか。
答えは、まだ、どこにもなかった。
ただ一つ、はっきりしていることがあった。
この人を、手放すことだけは、どうしてもできない。
歪んでいても、偽りだらけでも、今はまだ、この繋がりを失うことの方が、ずっと恐ろしかった。
そうして今日もまた、本音を隠したまま、夜が更けていく。
いつか、この偽りの関係が、本物に変わる日が来るのだろうか。
その答えを知る術は、まだ、どこにもなかった。
出会って、もう一年が経とうとしていた。
玲依のマンションを訪れるのは、もう何度目か分からない。
いつものように、玄関を開けると、すでにシャワーを終えた玲依が待っていた。
「シャワー浴びてきて」
短い言葉。
儀式のように繰り返される、いつもの流れだった。
浴室に入り、シャワーを浴びる。
一人になる、この数分間。
いつからか、この時間だけが、妙に頭が冴えるようになっていた。
これで、本当にいいのか。
シャワーの音に紛れて、そんな問いが、頭の中で繰り返される。
金づるのふりをして、この関係に入り込んだ。
軽い男を演じて、本気だと思われないように、ずっと自分を偽ってきた。
けれど、本当は。
出会った瞬間から、誰よりも、この人に惹かれていた。
その事実を、誰にも、玲依本人にすら、言えずにいる。
言えば、壊れてしまう気がした。
この、辛うじて成り立っている関係が。
体だけの繋がり。
条件だけで結ばれた、歪んだ形。
それでも、繋がっていられることの方が、今は大事だった。
シャワーを止めて、体を拭く。
鏡に映る自分の顔を、しばらく見つめた。
こんな顔で、あの人の前に立っているのか。
本音を隠したまま、平気な顔で。
部屋に戻ると、玲依が、ベッドの端に座っていた。
いつも通りの、感情の読めない表情。
けれど、その奥に、微かな疲れのようなものが滲んでいる気がした。
近づいて、頬に手を伸ばす。
指先が、肌に触れる寸前。
もし今、少しでも嫌がる素振りを見せてくれたら。
そうすれば、止まれるのに。
この関係を、これ以上進めなくて済むのに。
そんな考えが、一瞬、頭をよぎった。
けれど、玲依は、何も拒まなかった。
ただ静かに、目を伏せるだけ。
その従順さが、かえって胸を締めつけた。
拒まれない代わりに、望まれてもいない。
そんな気がしてならなかった。
この人は、何を思って、自分を受け入れているのだろう。
体だけの契約を、どんな気持ちで守っているのだろう。
問いたくても、問えなかった。
問えば、答えを聞くことになる。
その答えが、今の均衡を、壊してしまうかもしれないから。
頬に触れた指先を、そのまま滑らせる。
輪郭をなぞりながら、心の中では、まったく違うことを考えていた。
いつか、この歪んだ関係は、終わるのだろうか。
それとも、このまま、歪んだままでも、続いていくのだろうか。
答えは、まだ、どこにもなかった。
ただ一つ、はっきりしていることがあった。
この人を、手放すことだけは、どうしてもできない。
歪んでいても、偽りだらけでも、今はまだ、この繋がりを失うことの方が、ずっと恐ろしかった。
そうして今日もまた、本音を隠したまま、夜が更けていく。
いつか、この偽りの関係が、本物に変わる日が来るのだろうか。
その答えを知る術は、まだ、どこにもなかった。

