番外編5話「どこ行くの?」
夕食を終えて、洗い物をしようと立ち上がった。
狭いキッチンで、凛の横をすり抜けようとする。
けれど、思うように通れなかった。
気づけば、腕が伸びてきて、背後の壁に手をついていた。
「どこ行くの」
耳元で、低い声がした。
いつもより、少し掠れている。
その声だけで、心臓が跳ねた。
「洗い物、しようと思って」
軽く返そうとしたけれど、声が思ったより上ずっていた。
「後でいいでしょ」
凛が、もう一方の腕も、反対側の壁につく。
完全に、逃げ場がなくなった。
「凛?」
問いかけた声に、いつもの飄々とした調子は返ってこなかった。
代わりに、じっとこちらを見下ろす目があった。
その目には、これまであまり見たことのない、確かな余裕があった。
顎に、指がかかる。
そっと持ち上げられて、視線が絡んだ。
「今日、ずっと我慢してた」
呟くような声。
「何を」
「玲依さんに、触れたいの」
言葉と同時に、距離が詰まった。
唇が、重なる。
最初は、優しかった。
けれど、すぐに深くなっていく。
背中が、冷たい壁に押しつけられる。
その冷たさすら、今は気にならなかった。
角度を変えて、また重なる。
息を継ぐ間もないほどの熱量に、思考が溶けていく。
凛の手が、頬に触れる。
輪郭をなぞるように、丁寧に。
それなのに、口づけは、余裕をなくしていくばかりだった。
「もっと」
囁くような声が、唇の隙間から漏れた。
自分の声だったのか、凛の声だったのか、もう分からなかった。
体温が、混ざり合っていく。
三年という時間をかけて、ようやく辿り着いた、この距離。
その全部が、今、確かな熱として、押し寄せてきていた。
どれくらい、そうしていただろう。
ようやく唇が離れた時、どちらからともなく、小さく笑ってしまった。
「洗い物、まだだけど」
息を整えながら、そう言うと、凛が肩をすくめた。
「後でいいって言ったでしょ」
その悪びれない返事に、また笑いがこぼれる。
さっきまでの激しさが嘘のように、いつもの甘さが戻ってきていた。
「もう」
呆れたふりをしながら、凛の胸に、額を預けた。
腕が、そっと背中に回される。
「愛してる」
耳元で、静かにそう囁かれた。
その一言だけで、今日の全部が報われた気がした。
夕食を終えて、洗い物をしようと立ち上がった。
狭いキッチンで、凛の横をすり抜けようとする。
けれど、思うように通れなかった。
気づけば、腕が伸びてきて、背後の壁に手をついていた。
「どこ行くの」
耳元で、低い声がした。
いつもより、少し掠れている。
その声だけで、心臓が跳ねた。
「洗い物、しようと思って」
軽く返そうとしたけれど、声が思ったより上ずっていた。
「後でいいでしょ」
凛が、もう一方の腕も、反対側の壁につく。
完全に、逃げ場がなくなった。
「凛?」
問いかけた声に、いつもの飄々とした調子は返ってこなかった。
代わりに、じっとこちらを見下ろす目があった。
その目には、これまであまり見たことのない、確かな余裕があった。
顎に、指がかかる。
そっと持ち上げられて、視線が絡んだ。
「今日、ずっと我慢してた」
呟くような声。
「何を」
「玲依さんに、触れたいの」
言葉と同時に、距離が詰まった。
唇が、重なる。
最初は、優しかった。
けれど、すぐに深くなっていく。
背中が、冷たい壁に押しつけられる。
その冷たさすら、今は気にならなかった。
角度を変えて、また重なる。
息を継ぐ間もないほどの熱量に、思考が溶けていく。
凛の手が、頬に触れる。
輪郭をなぞるように、丁寧に。
それなのに、口づけは、余裕をなくしていくばかりだった。
「もっと」
囁くような声が、唇の隙間から漏れた。
自分の声だったのか、凛の声だったのか、もう分からなかった。
体温が、混ざり合っていく。
三年という時間をかけて、ようやく辿り着いた、この距離。
その全部が、今、確かな熱として、押し寄せてきていた。
どれくらい、そうしていただろう。
ようやく唇が離れた時、どちらからともなく、小さく笑ってしまった。
「洗い物、まだだけど」
息を整えながら、そう言うと、凛が肩をすくめた。
「後でいいって言ったでしょ」
その悪びれない返事に、また笑いがこぼれる。
さっきまでの激しさが嘘のように、いつもの甘さが戻ってきていた。
「もう」
呆れたふりをしながら、凛の胸に、額を預けた。
腕が、そっと背中に回される。
「愛してる」
耳元で、静かにそう囁かれた。
その一言だけで、今日の全部が報われた気がした。

