五月下旬。
大学へ向かう途中、いつも通る道に小さな花屋があった。
駅から大学へ向かう学生が行き交う通りから、少しだけ奥まった場所。
白い壁に、深い緑色の屋根。
入口の横には木製の棚が置かれ、季節の花が小さな鉢に植えられていた。
何度も前を通ったことはあった。
でも、それまで中へ入ろうと思ったことはなかった。
花なんて買ったこともない。
その日も、そのまま通り過ぎるつもりだった。
「……あ。」
店先に並んでいた花が、なんとなく目に入った。
白くて、小さい花。
派手ではなかった。
大きな花に囲まれていたら、見落としてしまいそうなくらい小さいのに、まっすぐ咲いていた。
俺は足を止めた。
なんか。
凛ちゃんみたい。
小さいし。
白くて、落ち着いてて。
なんとなく、凛としてる。
「…………。」
気づけば、店の入口へ向かっていた。
扉を開けると、小さなベルが、からん、と鳴った。
中には、外から見るよりもたくさんの花が並んでいた。
壁際には色とりどりの切り花。
足元には小さな鉢植え。
店の奥には、淡い色の包装紙やリボンが整然と並べられていた。
花屋って、こんな匂いするんだ。
甘いというより、少し青っぽい。
葉っぱや土の匂いも混ざっていた。
「いらっしゃいませ。」
声がして、店の奥を見た。
出てきたのは、若い女の人だった。
店員というより、この店そのものみたいに自然に花の中へ立っていた。
「何をお探しですか?」
「あー……。」
何を探してるんだろ、俺。
自分でもよく分からないまま、店先にあった花を思い浮かべた。
「小さくて。」
「はい。」
「凛としてて。」
女の人が少しだけ首を傾げた。
「かわいい花ください。」
数秒、沈黙が流れた。
「……贈る方のイメージですか?」
「たぶん。」
「たぶん?」
女の人が少し笑った。
それから店内を見渡し、白い小さな花の前で足を止めた。
「今の季節でしたら、すずらんはいかがですか?」
俺もそちらへ近づいた。
小さな白い花が、いくつも下を向いて咲いていた。
「あ。これ。」
さっき外で見たやつだ。
「お好きですか?」
「なんか、似てる。」
「贈る方に?」
「はい。」
即答すると、女の人がまた少し笑った。
「では、小さな花束にしましょうか。」
「お願いします。」
女の人は白いすずらんに少しだけ緑を添え、淡い包装紙で手際よく包んでいった。
大げさな花束ではなかった。
片手で持てるくらい小さい。
でも、なんか。
凛ちゃんには、これくらいが似合う気がする。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
花束を受け取り、店を出た。
それから改めて、手元の花束を見た。
「…………。」
なんで俺、花なんか買ったんだろ。
それまで女に花を渡したことなんてなかった。
彼女がいたときだって、一度もなかった気がする。
まあ。
かわいかったし。
凛ちゃんに似てたし。
それだけだろ。
大学へ向かう途中、いつも通る道に小さな花屋があった。
駅から大学へ向かう学生が行き交う通りから、少しだけ奥まった場所。
白い壁に、深い緑色の屋根。
入口の横には木製の棚が置かれ、季節の花が小さな鉢に植えられていた。
何度も前を通ったことはあった。
でも、それまで中へ入ろうと思ったことはなかった。
花なんて買ったこともない。
その日も、そのまま通り過ぎるつもりだった。
「……あ。」
店先に並んでいた花が、なんとなく目に入った。
白くて、小さい花。
派手ではなかった。
大きな花に囲まれていたら、見落としてしまいそうなくらい小さいのに、まっすぐ咲いていた。
俺は足を止めた。
なんか。
凛ちゃんみたい。
小さいし。
白くて、落ち着いてて。
なんとなく、凛としてる。
「…………。」
気づけば、店の入口へ向かっていた。
扉を開けると、小さなベルが、からん、と鳴った。
中には、外から見るよりもたくさんの花が並んでいた。
壁際には色とりどりの切り花。
足元には小さな鉢植え。
店の奥には、淡い色の包装紙やリボンが整然と並べられていた。
花屋って、こんな匂いするんだ。
甘いというより、少し青っぽい。
葉っぱや土の匂いも混ざっていた。
「いらっしゃいませ。」
声がして、店の奥を見た。
出てきたのは、若い女の人だった。
店員というより、この店そのものみたいに自然に花の中へ立っていた。
「何をお探しですか?」
「あー……。」
何を探してるんだろ、俺。
自分でもよく分からないまま、店先にあった花を思い浮かべた。
「小さくて。」
「はい。」
「凛としてて。」
女の人が少しだけ首を傾げた。
「かわいい花ください。」
数秒、沈黙が流れた。
「……贈る方のイメージですか?」
「たぶん。」
「たぶん?」
女の人が少し笑った。
それから店内を見渡し、白い小さな花の前で足を止めた。
「今の季節でしたら、すずらんはいかがですか?」
俺もそちらへ近づいた。
小さな白い花が、いくつも下を向いて咲いていた。
「あ。これ。」
さっき外で見たやつだ。
「お好きですか?」
「なんか、似てる。」
「贈る方に?」
「はい。」
即答すると、女の人がまた少し笑った。
「では、小さな花束にしましょうか。」
「お願いします。」
女の人は白いすずらんに少しだけ緑を添え、淡い包装紙で手際よく包んでいった。
大げさな花束ではなかった。
片手で持てるくらい小さい。
でも、なんか。
凛ちゃんには、これくらいが似合う気がする。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
花束を受け取り、店を出た。
それから改めて、手元の花束を見た。
「…………。」
なんで俺、花なんか買ったんだろ。
それまで女に花を渡したことなんてなかった。
彼女がいたときだって、一度もなかった気がする。
まあ。
かわいかったし。
凛ちゃんに似てたし。
それだけだろ。



