ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

その週末、久しぶりに六人で集まった。

駅近くのファミレス。
テーブルに料理が揃うより先に、美奈が背もたれへ身体を預けた。

「一週間、長すぎない?」

「月曜の朝は特にな。」

田中の返事に、俺も頷いた。

「わかる。金曜の夜だけ時間進むの早い。」

「それは大学の頃から言ってた。」

小川が淡々と返してきた。

「今は重みが違うんだよ。」

笑いながらも、みんな少しずつ疲れた顔をしていた。

大学にいた頃は、会えば誰かが次の講義を気にしていた。
今は月曜日の予定を気にしていた。

「凛はどう?」

詩織ちゃんに聞かれ、隣の凛が水のグラスを置いた。

「覚えることが多いかな。大学で勉強したことも、仕事だと確認することが全然違って。」

「帰ってからも勉強してるもんな。」

「わからなかった言葉を調べてるだけだよ。」

その『だけ』を毎日続けられるのが、すごいと思っていた。

「夏樹くんも、メモ読み返してるでしょ。」

「俺のは、読み返さないと忘れるから。」

「理由は私も同じ。」

凛が少し笑った。

仕事の話になると、まだ知らない名前や言葉が増えた。
それでも、こうして聞けば、凛がどんな一週間を過ごしたのか少しわかった。

「夏樹は?営業、慣れた?」

田中に聞かれ、俺は首を振った。

「全然。でも、教えてくれる先輩がすごくてさ。話すのが上手いだけじゃなくて、相手が何に困ってるか聞くのが上手いんだよ。」

「お前、先に喋りそうだもんな。」

「そうなんだよ。そこ直したい。」

小川が、少し意外そうに俺を見た。

「ちゃんと自覚あるんだ。」

「あるわ。」

言い返すと、隣で凛が頷いていた。

そこは否定してくれてもいいと思った。

詩織ちゃんも、まだ仕事の流れを覚えているところだと話した。
小川とは休みが合わない週もあるらしかった。

「会えないときは、夜に少し電話したりしてるよ。」

「こないだは五分で寝たけど。」

「……あの日は眠かったの。」

「うん。だから切った。」

小川は当たり前のように言って、ポテトを一本つまんだ。

無理に起こさず、責めもしない。
詩織ちゃんも、申し訳なさそうにしながら笑っていた。

二人らしいなと思った。

田中は、仕事で電話を取るときにまだ少し緊張すると話した。
美奈はそれを聞いて、勢いよく顔を上げた。

「わかる!聞きながらメモ取ってたら、次の話になってるの。」

「それで焦ると、余計に書けなくなるよな。」

「そう、それ。昨日もさ――」

話し始めた美奈の前で、料理の湯気が薄くなっていた。

田中が皿を指さした。

「美奈、先に食べたら。昼もちゃんと食べてないって言ってただろ。」

「あ、そうだった。お腹すいてたんだった。」

美奈がフォークを取ったところで、凛が首を傾げた。

「今日、お昼遅かったの?」

「起きたら昼過ぎで。そのまま洗濯とかしてたら、食べそびれちゃった。」

「だから、何か食べとけって送ったのに。」

田中が呆れたように言った。

美奈はひと口食べてから、田中を見た。

「昨日も話聞いてくれてありがと。途中から、ほぼ愚痴だったよね。」

「途中からだったか?」

「最初からって言いたいの?」

「自分でわかってるならいいけど。」

美奈が笑った。
田中も、つられたように口元を緩めた。

俺は何か言いかけて、やめた。

まだ聞かなくていいことも、きっとあった。

店を出る頃には、すっかり暗くなっていた。

「次は来月あたり?」

美奈の言葉に、それぞれがスマホを取り出した。
すぐに全員の予定が合わないところだけ、大学の頃とは違った。

それでも、候補の日を二つ決めた。

駅へ向かう途中、田中が美奈に何か話しかけていた。
さっきより元気な声で、美奈が答えた。

隣では凛が、スマホの予定表に集まる候補日を入れていた。

「また六人で会えるといいね。」

「会えるだろ。今日も会えたし。」

「うん。」

月曜日になれば、またそれぞれの場所へ行く。
わからないことを聞いて、失敗して、家に帰る頃には疲れている。

その繰り返しの中に、今日みたいな日がある。

来月ここで話す頃には、仕事でできるようになったことも、ひとつくらい増えていたらいいと思った。