ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

ゴールデンウィーク。
サークルの集まりで、川沿いのバーベキュー場に来ていた。
浅い川のすぐそばに、いくつものバーベキュー台が並んでいた-。
コンロや網、トングなんかは全部レンタルできるらしく、俺たちは食材だけ持ってきていた。

「夏樹、炭そっち。」

「はいはい。」

田中に言われて炭の入った袋を持ち上げた。
そのとき。

「あ。」

少し離れたところに、見覚えのある二人がいた。
美奈と凛。

「凛ちゃーん。」

俺は手を振った。
凛がこっちを見た。
今日も相変わらず無表情だった。

「こんにちは。」

「最近よく集まり来るね。」

「そうですね。」

「もしかして俺に会いに来てる?」

冗談っぽく言うと、凛は一秒も迷わなかった。

「前にも言いましたが、人脈づくりです。」

「即答。」

「他に理由がないので。」

「少しくらい迷ってくれてもよくない?」

「なぜですか。」

美奈が隣で笑っていた。
俺も笑いながら、改めて凛を見た。

「あれ。」

「なんですか。」

「今日、いつもと違うね。」

普段は下ろしている黒髪を、今日は高い位置で一つに結んでいた。
服装も、いつものロングスカートや長いパンツじゃなく、ハーフパンツだった。

「髪も結んでるし。」

「暑いので。」

「へえ。ポニーテールも似合うじゃん。」

「そうですか。」

「うん。かわいい。」

凛が俺を見る。

「今、足と胸を見て言いましたよね。」

「見た。」

「変態。」

「でもかわいいと思ったのは本当。」

「そういう問題ではありません。」

「褒めたのに。」

「視線の問題を指摘しています。」

「相変わらず細かいな。」

「あなたが雑なんです。」

美奈が吹き出した。

「朝から元気だね、二人とも。」

「俺はいつも元気。」

「私は巻き込まれているだけ。」

「またまた。」

そんなやり取りをしているうちに、準備が始まった。
俺と田中、小川は肉を焼く係になった。

「夏樹、それまだ生。」

田中が俺のトングを止めた。

「え、もういけるだろ。」

「無理。」

「田中ってこういうとこ細かいよな。」

「肉の生焼けを気にするのは普通だ。」

「彼女できたらめっちゃ口うるさそう。」

「余計なお世話だ。」

隣で小川が黙々と野菜をひっくり返していた。

「小川、それ焼けてる?」

「知らん。」

「お前もかよ。」

そんなことを言いながら肉を焼いていると、凛が視界に入った。
美奈と一緒に、紙皿や割り箸をみんなに配っていた。

「どうぞ。」

「あ、ありがと。」

「足りなかったら、あそこにまだあります。」

一人一人に声をかけながら配っていた。
少し離れたテーブルで紙コップが足りなくなっているのに気づくと、すぐに取りに行った。

「へえ。」

「何?」

田中が聞いてきた。
俺は凛を見た。

「凛ちゃん、気配りもできんだな。」

田中が呆れた顔をした。

「できるだろ。」

「なんか、人に興味なさそうじゃん。」

「お前にだけじゃない?」

「え?」

小川が肉をひっくり返しながらぼそっと言った。

「冬城さん、お前以外には普通。」

「マジ?」

「マジ。」

俺はもう一度凛を見た。
ちょうど凛がこっちを向いた。
目が合った。

「何ですか。」

「いや。気が利くなと思って。」

凛が少しだけ目を瞬かせた。

「それくらい普通です。」

「褒めてんだけど。」

「ありがとうございます。」

ちゃんと礼を言った。

「お。」

「何ですか。」

「今日は素直。」

「あなたが失礼なことを言わなければ、私も普通に返します。」

「なるほど。」

じゃあ普段のあれ、全部俺のせいなのか。

午後三時を過ぎたころ。
食べ終わった俺たちは、片付けを始めた。
レンタル品は返却場所へ持っていくだけなので、ゴミをまとめたり、使った場所を軽く掃除したりする程度だ。
一通り終わると、川のほうから美奈の声がした。

「凛、こっち冷たい!」

「ほんと?」

見ると、二人とも靴を脱いで川に入っていた。
美奈が水を蹴った。

「ちょっと、美奈。」

凛が避けた。

「えー、いいじゃん。」

「やったな。」

凛が水を蹴り返した。

「うわっ!」

「仕返し。」

そう言いながら笑っていた。

「……あ。」

裸足で川に入って、美奈と水を掛け合っていた。
いつもの落ち着いた凛からは想像できないくらい、無邪気だった。

「何見てんの?」

隣に来た田中が聞いた。

「凛ちゃん。」

「また?」

「だって、あんなことすんだなと思って。」

美奈に水をかけられて、凛が声を上げて笑った。
前回の飲み会でも笑っていたけど。
あのときより、ずっと無防備だった。

「……楽しそう。」

「そうだな。」

俺はしばらく二人を見ていた。
なんか今日。
知らない凛ちゃんばっか見るな。