九月下旬。
久しぶりに大学で顔を合わせた美奈と田中と、昼飯を食べた。
「で、結局買わなかったの?」
「高かったからな。」
「三十分も悩んでたのに。」
「悩んだから買わなかったんだよ。」
美奈が笑った。
田中も、困ったように笑っていた。
「お前ら、買い物行ったんだ?」
「駅で会ったから、ちょっと付き合ってもらったの。」
「ちょっとが二時間だったけどな。」
「でも、田中も見たい店あるって言ったじゃん。」
「まあな。」
そろそろ出るか、となったところで、美奈が田中を見た。
「このあと帰る?」
「図書館。返す本あるから。」
「じゃあ、私も行く。」
「本借りんの?」
「ううん。もうちょっと話したいし。」
田中の手が、一瞬止まった。
「……そっか。」
美奈は当たり前みたいに、その隣に並んだ。
前はもう少し、田中のほうから話しかけていた気がした。
「夏樹は?」
「凛ちゃんと約束。」
「ああ、はいはい。」
「まだ何も言ってなくね?」
「顔に書いてある。」
それは否定できなかった。
今日は、付き合って一年の日だった。
凛との約束まで、まだ少し時間があった。
俺は二人と別れて、一度大学を出た。
向かったのは、駅へ続く道から少し奥まったところにある花屋だった。
白い壁に、深い緑色の屋根。以前、凛にあげたスズランを買った店だった。
「いらっしゃいませ。」
エプロン姿の女性が、花を整えていた手を止めた。
「花束、お願いしたいんですけど。」
「はい。贈り物ですか。」
「彼女に。今日、付き合って一年なんで。」
自分で言って、少し照れた。
女性は柔らかく笑って、おめでとうございます、と言った。
「どんなお花にしましょうか。」
並んだ花を見渡した。
名前が分かるものは、相変わらず少なかった。
「白い、小さい花を入れたいです。前にここでスズラン買ってあげたら、喜んでくれたんで。」
「では、こちらのお花を中心にまとめましょうか。」
差し出された白い小花を見て、うなずいた。
「それでお願いします。あんまり大きくなくて、持ち歩きやすいやつで。」
女性が花を選ぶ手元を見ながら、最初にこの店へ入った日のことを思い出した。
あの時は、凛に似ていると思って、足を止めた。
今日は、喜ぶ顔が見たくて来た。
花を買う理由なんて、付き合う前の俺は考えたこともなかった。
出来上がった花束を受け取って、俺は白い花を見下ろした。
「また、お願いします。」
「はい。いつでもいらしてください。」
「記念日には、ここで買おうかなって。」
口にしてから、それいいな、と思った。
来年も、その次も。何を贈るか迷ったら、ここで凛のことを考えながら選べばよかった。
女性は柔らかく笑った。
「では、その時も一緒に選びましょう。」
「お願いします。俺、花の名前、全然覚えられなくて。」
「お名前が分からなくても、どんな方に贈りたいか教えていただければ大丈夫ですよ。」
それなら、いくらでも話せそうだった。
長くなりすぎないようにだけ、気をつけようと思った。
久しぶりに大学で顔を合わせた美奈と田中と、昼飯を食べた。
「で、結局買わなかったの?」
「高かったからな。」
「三十分も悩んでたのに。」
「悩んだから買わなかったんだよ。」
美奈が笑った。
田中も、困ったように笑っていた。
「お前ら、買い物行ったんだ?」
「駅で会ったから、ちょっと付き合ってもらったの。」
「ちょっとが二時間だったけどな。」
「でも、田中も見たい店あるって言ったじゃん。」
「まあな。」
そろそろ出るか、となったところで、美奈が田中を見た。
「このあと帰る?」
「図書館。返す本あるから。」
「じゃあ、私も行く。」
「本借りんの?」
「ううん。もうちょっと話したいし。」
田中の手が、一瞬止まった。
「……そっか。」
美奈は当たり前みたいに、その隣に並んだ。
前はもう少し、田中のほうから話しかけていた気がした。
「夏樹は?」
「凛ちゃんと約束。」
「ああ、はいはい。」
「まだ何も言ってなくね?」
「顔に書いてある。」
それは否定できなかった。
今日は、付き合って一年の日だった。
凛との約束まで、まだ少し時間があった。
俺は二人と別れて、一度大学を出た。
向かったのは、駅へ続く道から少し奥まったところにある花屋だった。
白い壁に、深い緑色の屋根。以前、凛にあげたスズランを買った店だった。
「いらっしゃいませ。」
エプロン姿の女性が、花を整えていた手を止めた。
「花束、お願いしたいんですけど。」
「はい。贈り物ですか。」
「彼女に。今日、付き合って一年なんで。」
自分で言って、少し照れた。
女性は柔らかく笑って、おめでとうございます、と言った。
「どんなお花にしましょうか。」
並んだ花を見渡した。
名前が分かるものは、相変わらず少なかった。
「白い、小さい花を入れたいです。前にここでスズラン買ってあげたら、喜んでくれたんで。」
「では、こちらのお花を中心にまとめましょうか。」
差し出された白い小花を見て、うなずいた。
「それでお願いします。あんまり大きくなくて、持ち歩きやすいやつで。」
女性が花を選ぶ手元を見ながら、最初にこの店へ入った日のことを思い出した。
あの時は、凛に似ていると思って、足を止めた。
今日は、喜ぶ顔が見たくて来た。
花を買う理由なんて、付き合う前の俺は考えたこともなかった。
出来上がった花束を受け取って、俺は白い花を見下ろした。
「また、お願いします。」
「はい。いつでもいらしてください。」
「記念日には、ここで買おうかなって。」
口にしてから、それいいな、と思った。
来年も、その次も。何を贈るか迷ったら、ここで凛のことを考えながら選べばよかった。
女性は柔らかく笑った。
「では、その時も一緒に選びましょう。」
「お願いします。俺、花の名前、全然覚えられなくて。」
「お名前が分からなくても、どんな方に贈りたいか教えていただければ大丈夫ですよ。」
それなら、いくらでも話せそうだった。
長くなりすぎないようにだけ、気をつけようと思った。



