ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

夕方、講義を終えた凛と合流して、駅へ向かった。

「面接、お疲れさま。」

「ありがと。今日さ、ちょっと反省した。」

「何かあった?」

俺は、面接で聞かれたことより、自分が話したいことばかり話してしまった気がすると伝えた。

凛は最後まで聞いてから、首を傾げた。

「話してる途中では、気づかなかった?」

「うん。めっちゃ盛り上がってると思ってた。」

「そっか。」

「人と喋るの得意だし、営業向いてると思ってたんだけど。それだけじゃだめだなって。」

凛は少し考えてから、俺を見上げた。

「それでも、営業がいい?」

「やりたい。」

そこは、すぐに答えられた。

「説明会でさ、客の話を聞いて、最初に頼まれたものとは別の提案をすることもあるって聞いたんだよ。」

「うん。」

「それで、こっちのほうがよかったって言ってもらえたら、嬉しくない?」

凛は頷いた。

「バイトでも、おすすめ聞かれて答えたら、帰りにうまかったって言ってもらえることあるし。自分が勧めたもので喜んでもらえるの、結構好きなんだよな。」

話しながら、少しずつ考えがまとまっていった。

誰とでも話せるから。
向いていそうだから。

最初は、それくらいの理由だった。
でも、会社を調べるうちに、そこで何をしてみたいかも考えるようになっていた。

「凛ちゃんは?どんな仕事したいとか、決まってきた?」

凛は鞄の持ち手を握り直した。

「……法務の仕事が、気になってる。」

「会社の法律関係のやつ?」

「うん。契約の内容を確認したり、社内の人から相談を受けたりする仕事」

凛ちゃん、向いてそう。

すぐに口から出そうになった言葉を、一度止めた。

「どういうところが気になったの?」

凛は少しだけ俺を見て、それから前へ視線を戻した。

「授業で契約の事例を読んでると、最初にここを確認していたら、揉めずに済んだかもしれないって思うことがあって。」

「うん。」

「問題が起きてから解決するのも大事だけど、起きる前にできることもあるんだなって。それを仕事にできたらいいなと思ったの。」

凛は、言葉を選びながら続けた。

「法律を知ってるだけで終わらせたくない。誰かが何かを始めるときに、安心して進められるように使えたらって。」

俺は隣を歩く凛を見た。



試験のために勉強している姿は、何度も見ていた。
でも、その先で何をしたいかは、ちゃんと聞いたことがなかった。

「……凛ちゃんらしい。」

「そう?」

「うん。だめなところ見つけて終わりじゃなくて、どうしたらいいかまで考えそう。」

「そういう仕事ができたらいいなとは思ってる。まだ、調べてるところだけど。」

凛の声には、少し照れが混じっていた。

「じゃあ俺が営業で、凛ちゃんが法務だったら、相談できるじゃん。」

「同じ会社ならね。」

「あ、そっか。」

「別の会社の契約書、見せないでね。」

「まだ何もしてないのに注意された。」

凛が小さく笑った。

俺も笑ってから、言った。

「でも俺、今日受けた会社、結構入りたいんだよな。」

「うん。さっき話してたとき、そう思った。」

「凛ちゃんと別でも?」

「私と同じかどうかで、佐藤くんの行きたいところ変えなくていいよ。」

凛は、まっすぐ俺を見ていた。

「私も、自分がやってみたい仕事を考えたいから。」

少し前なら、同じ会社がいい、とすぐに言っていた気がした。

毎日会えたら嬉しい。
それは今も変わらなかった。

でも、さっきの話の続きを聞きたかった。
凛が興味を持った仕事のことも、そこで働くようになった凛の話も。

「じゃあ、お互い受かったら報告な。」

「うん。」

「落ちたときも。」

「うん。聞くよ。」

駅前の信号で、二人並んで立ち止まった。

「……私の話、長くなっちゃったね。」

「全然。もっと聞きたい。」

「今日は聞き役なんだね。」

「俺だってできるし。」

「うん。ちゃんと聞いてくれた。」

凛はそう言って、少し笑った。

「でも、佐藤くんの話を聞くのも好きだよ。」

……そういうこと、急に言う?

聞くのを頑張ろうとした日に限って、今度は返す言葉が出てこなかった。