四月中旬。
大学四年になった俺は、営業職の選考を受け始めていた。
その日も、午前中に一次面接を終えて大学へ向かった。
「どうだった?」
学食で向かいに座った小川に聞かれ、俺は鞄を下ろした。
「結構喋れた。面接官の人も笑ってたし。」
「へえ」
「バイトの話とか、サークルの話とか。……たださ。」
椅子に座って、ネクタイを少し緩めた。
「周りと協力した経験を聞かれたんだけど。」
「うん。」
「俺が何したかばっか喋った気がする。」
小川が箸を止めた。
「協力した相手は?」
「バイトの後輩。」
「その人、何したの?」
「……そこ、言ってねえ。」
思い返すと、話し終えたあとに聞かれていた。
『そのとき、後輩の方とはどのように役割を分担したんですか。』
あれ、続きを聞きたかったんじゃなくて、俺が答えてなかったのか。
「俺、自分のこと喋りすぎてた?」
「聞かれたことに答えてなかったんじゃね。」
「そっちのほうがまずくない?」
小川は否定せず、味噌汁を飲んだ。
人と話すのは得意だった。
初対面でも、沈黙になって困ることはほとんどなかった。
だから面接も、緊張さえしなければ何とかなると思っていた。
……何ともなってない可能性が出てきた。
「詩織ちゃんも、選考始まってんの?」
「うん。昨日受けてた。」
「どうだった?」
「まだ聞いてない。」
「気になんない?」
「なるけど。昨日は疲れたって言ってたから。」
小川は、トレーの端に置いたスマホを見た。
「今度会ったとき、話したかったら話すだろ。」
「聞かないんだ。」
「聞くけど、会うたび結果どうだったっていうのもな。」
俺なら、面接が終わる時間に合わせて連絡しそうだった。
どうだった?
うまくいった?
何聞かれた?
心配しているつもりで、質問攻めにしているかもしれない。
小川のスマホが光った。
画面を見た小川は、短く文字を打ち込んだ。
「詩織ちゃん?」
「うん。土曜、昼なら会えるって。」
「何すんの?」
「飯。」
「普通だな。」
「普通でいいだろ。」
そう言った小川の口元は、少しだけ緩んでいた。
午後の用事を済ませて中庭へ出ると、ベンチに田中と美奈が座っていた。
「お疲れ。」
声をかけると、美奈が顔を上げた。
「あ、夏樹。面接?」
「午前中にね。二人は?」
「私はこれから説明会。」
美奈はそう言って、膝の上のスマホを裏返した。
「……なのにさ。今日の夜会えないって言ったら、また?って。」
田中が美奈を見た。
俺も、隣のベンチに腰を下ろした。
「彼氏?」
「うん。就活で忙しいのは言ってるんだけどね。夕飯くらい食べられるでしょって。」
「説明会のあと?」
「そのあと明日の面接の準備したいんだよね。でも、そう言うと、俺は後回しなんだってなる。」
それは彼氏が――。
言いかけたところで、田中が口を開いた。
「それ、何回かあったの?」
「最近は結構。前は私が予定合わせてたから。」
「そっか。」
田中は、その先を急かさなかった。
美奈は伏せたスマホを指でなぞっていた。
「会いたくないわけじゃないんだけどさ。会うために無理するのが、ずっと私なのはどうなんだろって。」
俺は口を閉じた。
美奈はまだ、自分の気持ちを話している途中だった。
「それも彼氏に言った?」
「……そこまでは言ってない。」
「うん。」
「一回、ちゃんと話してみようかな。」
田中は頷いた。
美奈が立ち上がってから、俺は田中を見た。
「お前、ああいうとき何て言うか迷わない?」
「迷うよ。」
「そう見えなかった。」
「適当なこと言えないだろ。」
田中は、美奈が歩いていったほうを見ていた。
俺はいつも、何か言わなきゃと思っていた。
でも、言わずに聞いている時間にも、意味はあるらしかった。
大学四年になった俺は、営業職の選考を受け始めていた。
その日も、午前中に一次面接を終えて大学へ向かった。
「どうだった?」
学食で向かいに座った小川に聞かれ、俺は鞄を下ろした。
「結構喋れた。面接官の人も笑ってたし。」
「へえ」
「バイトの話とか、サークルの話とか。……たださ。」
椅子に座って、ネクタイを少し緩めた。
「周りと協力した経験を聞かれたんだけど。」
「うん。」
「俺が何したかばっか喋った気がする。」
小川が箸を止めた。
「協力した相手は?」
「バイトの後輩。」
「その人、何したの?」
「……そこ、言ってねえ。」
思い返すと、話し終えたあとに聞かれていた。
『そのとき、後輩の方とはどのように役割を分担したんですか。』
あれ、続きを聞きたかったんじゃなくて、俺が答えてなかったのか。
「俺、自分のこと喋りすぎてた?」
「聞かれたことに答えてなかったんじゃね。」
「そっちのほうがまずくない?」
小川は否定せず、味噌汁を飲んだ。
人と話すのは得意だった。
初対面でも、沈黙になって困ることはほとんどなかった。
だから面接も、緊張さえしなければ何とかなると思っていた。
……何ともなってない可能性が出てきた。
「詩織ちゃんも、選考始まってんの?」
「うん。昨日受けてた。」
「どうだった?」
「まだ聞いてない。」
「気になんない?」
「なるけど。昨日は疲れたって言ってたから。」
小川は、トレーの端に置いたスマホを見た。
「今度会ったとき、話したかったら話すだろ。」
「聞かないんだ。」
「聞くけど、会うたび結果どうだったっていうのもな。」
俺なら、面接が終わる時間に合わせて連絡しそうだった。
どうだった?
うまくいった?
何聞かれた?
心配しているつもりで、質問攻めにしているかもしれない。
小川のスマホが光った。
画面を見た小川は、短く文字を打ち込んだ。
「詩織ちゃん?」
「うん。土曜、昼なら会えるって。」
「何すんの?」
「飯。」
「普通だな。」
「普通でいいだろ。」
そう言った小川の口元は、少しだけ緩んでいた。
午後の用事を済ませて中庭へ出ると、ベンチに田中と美奈が座っていた。
「お疲れ。」
声をかけると、美奈が顔を上げた。
「あ、夏樹。面接?」
「午前中にね。二人は?」
「私はこれから説明会。」
美奈はそう言って、膝の上のスマホを裏返した。
「……なのにさ。今日の夜会えないって言ったら、また?って。」
田中が美奈を見た。
俺も、隣のベンチに腰を下ろした。
「彼氏?」
「うん。就活で忙しいのは言ってるんだけどね。夕飯くらい食べられるでしょって。」
「説明会のあと?」
「そのあと明日の面接の準備したいんだよね。でも、そう言うと、俺は後回しなんだってなる。」
それは彼氏が――。
言いかけたところで、田中が口を開いた。
「それ、何回かあったの?」
「最近は結構。前は私が予定合わせてたから。」
「そっか。」
田中は、その先を急かさなかった。
美奈は伏せたスマホを指でなぞっていた。
「会いたくないわけじゃないんだけどさ。会うために無理するのが、ずっと私なのはどうなんだろって。」
俺は口を閉じた。
美奈はまだ、自分の気持ちを話している途中だった。
「それも彼氏に言った?」
「……そこまでは言ってない。」
「うん。」
「一回、ちゃんと話してみようかな。」
田中は頷いた。
美奈が立ち上がってから、俺は田中を見た。
「お前、ああいうとき何て言うか迷わない?」
「迷うよ。」
「そう見えなかった。」
「適当なこと言えないだろ。」
田中は、美奈が歩いていったほうを見ていた。
俺はいつも、何か言わなきゃと思っていた。
でも、言わずに聞いている時間にも、意味はあるらしかった。



