ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

数日後、凛と大学で会えた。

キャリアセンターへ向かう途中だと聞き、俺も少し早く家を出た。
相談の時間まで、休憩スペースで一緒に昼食を食べることになった。

「凛ちゃんだ。」

「見れば分かるよ。」

「本物、久しぶり。」

「写真とは毎日会ってるの?」

「うん。」

凛は一瞬黙ってから、お茶の蓋を開けた。

「そこは否定してほしかった。」

俺は笑った。
この返しも、声も、会わないと分からない表情も、全部久しぶりだった。

凛の手元には、企業の資料があった。

「そこ受けるの?」

「うん。仕事内容が気になってるから。」

俺は横から資料をのぞいた。



「じゃあ、俺も受けようかな。」

「夏樹くんも興味あるの?」

「同じ会社に入ったら、毎日会えるじゃん。」

凛の手が止まった。

「それが理由?」

「結構大事じゃない?」

「会いたいから受けるの?」

「うん。凛ちゃんと離れたくないし。」

凛は資料を置いて、俺を見た。

「自分の将来を、私に合わせて決めないで。」

思っていたより真剣な声だった。

「……そんなにだめ?」

「私も、会えなくて平気なわけじゃないよ。」

その言葉に、顔を上げた。

「でも、仕事が合わなかったとき、私と同じ会社だからって我慢してほしくない。」

「凛ちゃんのせいになんかしないよ。」

「うん。でも、夏樹くんが何をしたいかも、大事にしてほしい。」

俺は手元の資料に目を落とした。
会社名は見たけれど、仕事内容はまだ読んでいなかった。

同じ会社でも、配属先が同じとは限らなかった。
そんなことさえ、考えていなかった。

「……営業は、ちょっと面白そうだと思った。」

「この前の説明会?」

「うん。話すだけじゃなくて、客の困ってることを考えるんだって。」

凛がうなずいた。

「その話、もう少し聞きたい。」

俺は説明会でもらった資料を鞄から出した。
丸をつけたページを開くと、凛が隣からのぞき込んだ。

ただ近くにいたくて持ち出した就職の話を、そのとき初めて、ちゃんと二人でした。



夕方、応募書類を直していると、凛からメッセージが届いた。

『もう帰った? まだ大学なら、駅まで一緒に帰らない?』

俺はすぐに返した。

『いる。どこ?』

片づけようとして、書きかけの文章が目に入った。
最後の一文だけ打ち終えて、保存した。

正門で待っていた凛が、俺を見つけて小さく手を上げた。

「お待たせ。」

「走ってきた?」

「途中から。」

「急がなくても待ってたのに。」

駅まで、十五分もかからなかった。
次に受ける説明会の話をして、夕飯を何にするか話していたら、すぐに着いてしまった。

改札の前で、俺は腕時計を見た。

「もう着いちゃった。」

「毎日通ってる道なのにね。」

「今日、短くない?」

凛が少し笑った。
それから、俺の腕元へ視線を落とした。

「時計、使ってくれてるんだね。」

「毎日。書類書くときも、説明会でも。」

「そっか。」

凛は嬉しそうに口元を緩めた。

「……今日、誘ってよかった。」

「俺も会いたかった。」

「うん。私も。」

たった十五分だった。

会えなかった二週間がなくなるわけではなかったし、明日から急に暇になるわけでもなかった。

それでも帰りの電車では、何度も凛の返事を思い出した。

会いたかったのは、俺だけじゃなかった。

家に着いて、俺はパソコンを開いた。
凛に話した営業職の募集要項を、今度は最後まで読んだ。