三月上旬。
大学三年の春休みは、思っていたほど暇ではなかった。
企業説明会。エントリーシート。適性検査の対策。
夏のインターンではまだ遠かった就職が、急に目の前まで迫っていた。
大学の合同企業説明会の日、俺たちは六人で集まった。
「田中、スーツ着ると普通の会社員だな。」
「何なら正解なんだよ。」
「小川は眠そう。」
「それはスーツ関係ない。」
隣で詩織ちゃんが笑った。
美奈は会場案内を広げ、凛と回る順番を確認していた。
「凛ちゃん、何社くらい見るの?」
「今日は四社。そのあと、キャリアセンターで相談。」
「忙しくない?」
「そのために来たんだよ。」
凛の手帳には、企業名と時間が細かく書き込まれていた。
俺のスマホにも予定は入っていたけれど、そこまできれいには整理されていなかった。
「俺のも管理してほしい。」
「自分でしてください。」
そこだけ敬語だった。
説明会が始まると、俺たちはそれぞれのブースへ向かった。
担当者に仕事の話を聞くのは、思ったより楽しかった。
居酒屋のバイトで、客に合わせておすすめを変えていると話したら、営業の仕事について詳しく教えてもらえた。
ただ、どんな人とでも話せればいい、というわけではないらしかった。
相手が何に困っているのかを聞いて、必要なものを考える。
説明を聞きながら、俺は資料の営業職という文字に丸をつけた。
途中で田中と合流すると、肩を叩かれた。
「お前、隣の人とも仲良くなってたな。」
「同じ会社気になってるらしいから。」
「初対面だろ?」
「うん。もう連絡先交換した。」
「そういうところは向いてそうだよな、営業。」
「そういうところは?」
「思ったことを全部言うところは直せ。」
それは凛にもよく言われた。
それから、予定はどんどん埋まっていった。
凛を誘った日に俺の説明会が入り、俺が空いている日は凛に予定があった。
夜なら電話できると思ったけれど、応募書類を書いているうちに日付が変わった。
『今終わった。起きてる?』
送ったメッセージには、翌朝返事が来た。
『寝てた。お疲れさま』
その頃には、俺が寝ていた。
そんなことを繰り返して、気づけば二週間、二人で出かけていなかった。
「まだ返ってこない。」
書類を見せ合うために入ったファミレスで、俺はスマホを伏せた。
田中は自分のパソコンから目を離さなかった。
「いつ送ったんだよ。」
「一時間前。」
「待てよ、それくらい。」
「待ってるじゃん。」
「五分おきに確認してるけどな。」
小川に言われ、また伸ばしかけていた手を止めた。
凛が忙しいのは分かっていた。
俺だって、すぐには返せないことがあった。
でも、分かっていることと、寂しくないことは別だった。
「会いたいものは会いたいじゃん。」
「そのまま冬城さんに言えば?」
「忙しいのに困らせたくないし。」
田中がようやく顔を上げた。
「そこは考えるようになったんだな。」
「俺のこと何だと思ってんの?」
「思ったことを全部言うやつ。」
否定できなかった。
以前、付き合っていた子に、返事が遅いと言われたことがあった。
そのときは、あとで返すんだからいいじゃん、と思っていた。
『あとで』がいつなのか分からない時間は、想像していたより長かった。



