ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

クリスマス当日。

本当は夜景の見えるレストランへ連れていきたかったけれど、思いついたときには、どこも予約で埋まっていた。
田中には「動くのが一か月遅い」と言われた。
仕方がないので、駅前の商業施設で買い物をしてから、イルミネーションを見に行くことにした。

「凛ちゃん、何か欲しいものある?」

「特にはないかな。」

「じゃあ、俺?」

「どうして夏樹くんがプレゼントになるの?」

「一番喜ぶかと思って。」

「どこから来るの、その自信。」

凛が呆れたように笑った。
かわいかった。

もっと見ていたかったけれど、今日はほかにも目的があった。

「凛ちゃん、こっち。」

「どこに行くの?」

「プレゼント買いに行く。」

「欲しいものはないって言ったよね。」

「でも、俺があげたいものは決まってるから。」

凛の返事を待たず、手をつないで歩き出した。

この日のために、駅ビルに入っているアクセサリーショップを調べていた。
一人で買ってもよかったけれど、凛の指輪のサイズは知らなかった。それに、せっかくなら毎日つけてもらえるものを一緒に選びたかった。

店の前まで来ると、凛がショーケースを見た。

「アクセサリー?」

「うん。」

「何を買うの?」

俺はショーケースに並んだ指輪を指した。

「ペアリング。」

凛が黙った。
予想していなかったらしく、指輪と俺を交互に見ている。

「……二人でつける指輪だよね?」

「うん。俺の分も一緒に買う。」

「私がつけることは、もう決まってるの?」

「嫌?」

凛はすぐには答えず、ショーケースへ視線を戻した。

「嫌とは言ってないけど。」

「じゃあ、つけてくれる?」

「お揃いのものが欲しいというより、周りに見せたいんじゃない?」

見抜かれていた。

「どっちも。」

「否定しないんだ。」

「これつけてたら、凛ちゃんに彼氏がいるって分かるでしょ?」

「やっぱり、そっちが主な目的だよね。」

「大事なことじゃん。」

凛は呆れたように息をついたあと、もう一度ショーケースを見た。

「派手なものは嫌だから。」

「じゃあ、一緒に選んでくれる?」

「ここまで連れてきてから聞くの?」

そう言いながらも、凛は俺より先に店へ入っていった。
いくつか試したあと、装飾の少ない細いシルバーリングを選んだ。

凛の小さな指に、店員が指輪を通す。
それだけで、ものすごく特別なことをしている気がした。



店を出てすぐ、俺は凛の手を取った。
さっき買ったばかりの指輪が、照明の下で小さく光っていた。

「大学にもつけてきてね。」

「毎日?」

「毎日。」

「夏樹くんもつけるんだよね?」

「もちろん。俺は誰に見られてもいいし。」

凛は俺の指輪を確認してから、少しだけ口元を緩めた。

「じゃあ、私もつける。」

その一言だけで、二人分買った意味は十分あった。

夕食を食べたあと、イルミネーションの見える広場へ向かった。
白や青の光が並ぶ通りは、恋人同士や家族連れで混雑していた。

凛とはぐれないように手をつなぐと、指輪同士が触れた。
それが嬉しくて何度も手元を見ていると、凛が立ち止まった。

「私からもあるよ。」

凛が鞄から小さな箱を取り出した。

「開けていい?」

「そのために渡したから。」

箱の中に入っていたのは、黒い革ベルトの腕時計だった。
落ち着いたデザインで、普段の服にも、スーツにも合いそうだった。

「就活でも使えるものがいいと思って。」

「もしかして、社会人になっても使えるように?」

「その頃まで壊れなければね。」

「壊れても直して使う。」

俺はすぐに時計を腕につけた。
左手には腕時計と凛とお揃いの指輪があった。

「凛ちゃん、見て。両方一緒に見える。」

「さっきから何回見てるの?」

「時間じゃなくて、両方見てる。」

「落ち着いて。」

無理だった。
凛にもらった腕時計と、凛とお揃いの指輪。
見るたびに、凛が俺の彼女なのだと実感した。

帰りの電車に乗る前、凛のスマホに美奈からメッセージが届いた。
画面を見た凛の表情が曇る。

「どうしたの?」

「美奈、彼氏に会えなくなったみたい」

急な仕事が入ったと連絡があり、食事の約束はなくなったらしい。
美奈は彼氏へのプレゼントも用意していた。
それでもメッセージには、仕方ない、社会人だから、と書かれていた。

「電話してみたら?」

「うん」

凛が電話をかけようとしたとき、続けてメッセージが届いた。

『田中が近くにいるみたいだから、駅まで一緒に帰ってもらう』

「田中、バイトの後も暇だったんだ。クリスマスなのに。」

「そういうことは言わないの。」

「本人いないじゃん。」

「いなくてもだめ。」

そのときの俺は、美奈の彼氏のことも、田中が本当に偶然近くにいたのかも、深く考えなかった。

ただ、凛の左手にある指輪を見て、つないだ手に少しだけ力を込めた。

初めてのクリスマスにもらった腕時計を、俺は社会人になってからも使い続けることになる。

もちろん、指輪も。

凛が外していいと言うまで、外すつもりはなかった。