ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

駅前から二十分くらい歩いた。
坂道を上っていくと、凛が俺を見上げた。

「佐藤くん。」

「ん?」

「まだですか。」

「もうちょい。」

坂を上りきった先には、小さな公園があった。

高台にあるから、街がよく見える。

「着いた。」

ちょうど太陽が傾き始めていた。

凛が景色を見て、少し目を見開く。

「……綺麗ですね。」

「でしょ?」

スマホを取り出して、夕日にカメラを向けた。

「写真、好きなんですか?」

「うん。綺麗な景色とか自然撮るの好き。」

「意外ですね。」

「俺、どう思われてんの。」

笑いながら、スマホの写真を見せる。
海とか、桜とか、夕焼けとか。
旅行先で撮った山とか。

「結構撮ってるでしょ。」

「本当ですね。」

凛は一枚ずつ、思っていたより真剣に見ていた。

「こういうのが好きなんですね。」

「うん。」

スマホを返すと、凛はもう一度夕日のほうを向いた。

黒い髪が、夕日に照らされていた。
綺麗だな、と思った。
景色じゃなくて。
凛が。

気づいたら、そのままシャッターを押していた。



カシャ、と音が鳴る。
凛が振り返った。

「今、勝手に撮りましたね。」

「うん。」

「消してください。」

「えー。」

「なぜ嫌そうなんですか。」

「綺麗だったから、つい。」

凛が黙った。

「……まあ、いいですけど。」

「いいんだ。」

思わず笑った。

「うれしっ。」

「あなたは本当に、すぐ感情が言葉に出ますね。」

「そう?」

「出ています。」

「まあ、隠す必要ないし。」

俺は凛を見た。

「俺、まだ凛ちゃんのこと好きだし。」

凛が止まった。

「っていうか、前よりもっと好きになってる。」

「……そういうこと、よく平気で言えますね。」

凛は夕日のほうへ顔を戻した。

頬が、少し赤かった。
夕日のせいだと思った。

――たぶん。

少しして、凛が口を開いた。

「佐藤くん。」

「ん?」

「まだ時間ありますか?」

「あるよ。凛ちゃんのためならいくらでも。」

「そういうのはいいです。」

「本当なのに。」

凛は俺を見た。

「夕飯、食べませんか。」

「食べる。」

「即答ですね。」

「凛ちゃんから誘ってくれた時点で行く。」

「……今日、誕生日ですよね。」

「うん。」

「なので、その……お祝いです。」

一瞬、言葉が出なかった。

「いいの?」

「嫌ならやめますが。」

「行く。めちゃくちゃ行く。嬉しい。」

連れていかれたのは、高層階にあるレストランだった。
窓際の席から、街の明かりが見える。

「すご。」

思わず窓に近づいた。

「めっちゃ綺麗。」

「……よかったです。」

「ここ、凛ちゃんが選んだの?」

「はい。」

「なんで?」

凛は窓の外を見た。

「綺麗な景色が好きだと聞いたので。ここなら夜景が見えるかと思って。」

「……俺がさっき言ったから?」

「はい。」

俺は凛を見た。

「何ですか。」

「いや。」

なんか、めちゃくちゃ嬉しかった。
凛の好きなものを知るのは楽しい。
何が好きで、何が嫌いで、何をすると笑うのか。
ずっと俺ばっかり知りたがってると思ってた。

でも。

「凛ちゃん。」

「はい。」

「俺のこと、知ろうとしてくれてる?」

凛の動きが止まった。

「……午後は佐藤くんの行きたいところに行く約束だったので。」

「そっか。」

やっぱ違うか。
そう思ったのに。
凛は少しだけ目を逸らしていた。

もしかして。

ほんの一瞬、そんなことを考えた。
でも、俺は一回ちゃんと振られている。

『私は好きではありません。』

あれだけはっきり言われたのに、ちょっと優しくされたくらいで期待するのは都合がよすぎる。
だから、その日はそれ以上聞かなかった。

ただ。

今日一日で、俺は凛のことをまたいくつか知った。
意外と負けず嫌いなこと。
俺の撮った写真を真剣に見てくれること。
俺の誕生日を祝ってくれること。

それだけじゃなかった。

凛も、俺のことを知ろうとしてくれていた。

――ような気がした。

その答えを知ることになるのは、もう少しだけあとだった。