ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

昼になり、俺たちは凛のおすすめのパスタ屋へ入った。

「凛ちゃん、本当にパスタ好きだよね。」

「そうですね。」

「なんで好きなの?」

「手軽だからです。」

「え、それだけ?」

「簡単に作れて、おいしくて、一皿で済みます。本を読みながらでも食べられますし。」

「あはは。凛ちゃん、本が好きなんだね。」

「好きです。」

凛は真っすぐ俺を見て言った。
一瞬だけ、俺に言われたような気がした。

「……それ、やばい。」

「何がですか?」

「俺に好きって言ってるように見えた。」

「自意識過剰ですね。」

「分かってるけど。そんな真剣な顔で言われたら照れるじゃん。」

「本が好きだと言っただけです。」

凛はそう言って、フォークでパスタを巻いた。

でも、頬が少しだけ赤かった。
もしかして、凛ちゃんも照れてる?
そう思ったら、余計に顔が熱くなった。

二人で出かけたいとは言ったけど、まだ半日しか経っていない。
このまま一日一緒にいたら、俺の心臓は持たないかもしれない。

食事を終え、店を出る準備をしていると、凛が買った本の入った袋を持ち上げた。

「このあとは、駅へ戻りますか?」

「うん。凛ちゃんの行きたいところは全部回ったんでしょ?」

「そうですが……。」

凛は少し迷ってから、俺を見た。

「ランチが終わったら、次は佐藤くんが行きたいところに行きませんか?」

「え。」

「お互いの行きたい場所へ行ったほうが、公平だと思います。」

「午後も一緒にいていいの?」

「嫌なら帰ります。」

「嫌なわけないじゃん。行く。絶対行く。」

「反応が大げさです。」

「だって、午後も凛ちゃんと一緒にいられるんでしょ。どこ行こうかな。」

行きたい場所を頭の中で考えていると、テーブルの上に置かれていた凛のスマホが震えた。

凛が画面を確認し、わずかに眉を寄せた。

「どうしたの?」

「詩織からです。」

「なんて?」

「少し待ってください。」

凛はもう一度画面を見たあと、ゆっくりと俺に顔を向けた。

「佐藤くん。」

「うん?」

「今日、誕生日なんですか?」

「あれ、言ってなかったっけ。」

「聞いていません。」

「そっか。今日で二十一。」

「なぜ言わなかったんですか?」

凛の声はいつもと変わらなかった。
でも、俺が誕生日だと知らなかったことを、少し気にしているように見えた。

「言ったら、凛ちゃんが気を遣うかもしれないじゃん。」

「だから黙っていたんですか?」

「うん。それに、誕生日じゃなくても今日は楽しいし。」

凛は何も言わなかった。

「凛ちゃんと二人で出かけられただけで、十分いい誕生日になってるよ。」

「……そうですか。」

凛は視線を落とし、スマホを握り直した。
その画面に何が書かれていたのか、俺には見えなかった。
ただ、少ししてから、凛は俺を見上げた。

「午後に行く場所は、佐藤くんが決めてください。」

「本当にどこでもいいの?」

「常識の範囲内でお願いします。」

「じゃあ、俺が好きなところに連れていく。」

「はい。」

半日でも心臓が持たないと思っていたのに、午後まで一緒にいられるらしい。

しかも、今年の誕生日は凛ちゃんと二人きりだった。

俺にとっては、それだけで十分だった。