ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

カラオケでしばらくうたった後、カラオケを出て電車に乗り、花火大会の会場へ向かった。

急に決めたので、当然、誰も浴衣なんて着ていない。
それでも会場へ近づくにつれて人が増え、屋台の明かりや祭り囃子で、十分それらしい雰囲気になっていた。

小川と詩織が並んで先を歩き、その後ろを田中と美奈が歩いていた。

凛は人混みに慣れていないのか、少し遅れていた。
俺も足を緩め、凛の隣を歩いた。

「凛ちゃん、ちゃんとついてきてる?」

「ついてきています。」

「小さいから見失いそう。」

「余計なお世話です。」

「でも、今も一回見失った。」

「佐藤くんが前しか見ていないからでしょう。」

凛の言うとおりだった。
少し目を離すと、凛の黒い髪が人の波に隠れてしまう。
前から来た集団を避けたとき、凛の姿が一瞬見えなくなった。
俺は慌てて手を伸ばし、凛の手をつかんだ。

「ちょっと、佐藤くん。」

「はぐれるから。」

「いきなりつかまないでください。」

「凛ちゃん小さいし、普通に見失う。」

「失礼ですね。離してください。」

「やだ。またはぐれるもん。」

返事を待たず、そのまま手をつないで歩き出した。
凛は不満そうに俺を見たが、手を振りほどかなかった。
人の流れが落ち着いたところで周囲を見回したが、四人の姿はなかった。
スマホを確認すると、小川から『先に場所探す』と連絡が来ていた。

「みんなとはぐれちゃったな。」

「佐藤くんが勝手に先へ進むからです。」

「凛ちゃんを見失ったからだろ。」

「それでも、急に手を引かないでください。」

怒っているような口調だったが、凛の手はまだ俺の手の中にあった。
みんなとはぐれたのに、困ったより先に、少し嬉しいと思ってしまった。



「俺さ。」

「なんですか。」

「本当は今日、二人で出かけたかった。」

凛が足を止めた。

「六人で集まろうと言ったのは、佐藤くんですよね。」

「うん。そのときは、六人で会えれば楽しいと思ってた。」

「今は違うんですか?」

「凛ちゃんが隣にいたら、もっと喋りたくなった。」

「カラオケでも十分喋りました。」

「でも、二人で喋りたくなった。」

凛が黙った。

その向こうで、最初の花火が夜空に上がった。
大きな音が響き、周りから歓声が上がる。

「欲張りですね。」

花火を見上げながら、凛が言った。

「うん。自分でもびっくりしてる。」

最初は、凛と会えればそれでよかった。

次は隣に座りたくなって、隣に座れたら俺だけを見てほしくなった。
二人きりになれたら、今度はこの時間がもっと続けばいいと思った。

俺は自分で思っていたより、ずっと欲張りだった。