ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

数日後。
田中と小川に誘われ、駅前のファミレスに来ていた。

「夏樹、夏のインターンどうするの?」

田中に聞かれ、俺はメニューから顔を上げた。

「どうするって?」

「どこか応募した?」

「まだ。お前らが行くなら、俺も同じところ行こうかなって。」

「遠足じゃないんだから。」

田中が呆れたように言った。

「一人で行ってもつまんなくない?」

「遊びに行くわけじゃないからな。」

「友達と一緒のほうが心強いじゃん。」

「お前、友達ならどこにでもいるだろ。」

確かに、知り合いが一人もいない場所のほうが珍しかった。
小川はコーヒーを飲みながら、俺たちの会話を黙って聞いていた。

「小川は?」

「二社行く。」

「いつの間に?」

「結構前に応募した。」

「聞いてないんだけど。」

「言ってないからな。」

相変わらずだった。

「田中は?」

「俺も一社決まってる。」

「え。じゃあ、俺だけ何もしてない?」

「そうなるな。」

田中が頷く。
俺はスマホを取り出し、大学から届いていたインターンの案内を開いた。
募集が終わっている企業も結構あった。

「三年の夏って、もっと遊べると思ってた。」

「二年まで遊んでただろ。」

「田中は大学生活を就活のために使ってんの?」

「お前よりは真面目に使ってる。」

失礼なやつだった。

「冬城さんもインターン行くんだろ。」

小川が何でもないことのように言った。

「なんで知ってんの?」

「詩織から聞いた。」

「ああ。彼氏の情報網か。ずるくない?」

「何が?」

「俺より凛ちゃんの予定に詳しいところ。」

凛からは、インターンの準備で忙しいとしか聞いていなかった。
どこの企業へ行くのかも、何日間なのかも知らない。

「法学部なら、真面目なやつ多そうだよな。」

田中が言った。

「だから?」

「別に。」

そう言いながら、田中が笑っている。
こういう顔をするときは、だいたいろくなことを言わない。

「冬城さん、インターン先でいい人見つけるかもな。」

「……いい人って?」

「頭がよくて、落ち着いてて、就活もちゃんとしてる男。」

「俺と真逆みたいに言うなよ。」

「実際、真逆だろ。」

小川にまで言われた。

「でも凛ちゃん、そういう男が好きとは限らなくない?」

「佐藤くんのことも、まだ好きではありません。」

小川が凛の口調をまねて言った。

「似てない。」

「そこ?」

田中が笑った。
でも、俺は笑えなかった。

インターン先で、凛が知らない男と話している。
昼になったら一緒に飯を食べて、連絡先を交換するかもしれない。

凛は人脈を広げるために、大学のサークルに入った。
必要だと思えば、男とだって普通に連絡先を交換するだろう。
そこで、頭がよくて、落ち着いていて、俺みたいに失礼なことも言わない男に会ったら。



「……それ、困るんだけど。」

「何が?」

「凛ちゃんが、いい人見つけるの。」

田中と小川が、そろって俺を見た。

「お前、まだ冬城さんと付き合ってないだろ。」

「だから困るんじゃん。」

「付き合ってないなら、冬城さんが誰を好きになっても自由だろ。」

「分かってるけど。」

分かっている。
凛が誰と話そうが、誰と飯を食おうが、俺に止める権利はなかった。
でも、嫌だった。

「俺以外に好きになる男ができたら困る。」

「夏樹はまだ好かれてないだろ。」

「田中、そういう正論いらない。」

俺はスマホを取り出し、インターンの募集ページを開いた。

「お前、急にやる気出したな。」

「俺もちゃんとした男になる。」

「動機が不純すぎるだろ。」

「やらないよりよくない?」

田中は何か言いたそうな顔をしていたが、小川は少しだけ笑っていた。

会えなくて寂しいだけだと思っていた。
たぶん、それだけじゃなかった。
凛が知らない場所へ行くことも。
そこで俺の知らない誰かと親しくなることも。

俺は嫌だった。

凛ちゃんを、誰かに取られたくない。
そう思ったのは、たぶん初めてだった。