ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

飲み会が始まって一時間ほど経った。

俺は何度か席を移動して、知り合いと喋っていた。
久しぶりに会うやつもいたし、ほとんど喋ったことのないやつもいた。
適当に飲んで、適当に喋って。

気づけば、また凛たちのテーブルに戻っていた。

「凛ちゃん、飲んでる?」

「飲んでいます。」

俺はテーブルを見た。
空になったグラスが二つ置かれていた。
今持っているので三杯目だろうか。

「それ何杯目?」

「三杯目です。」

「大丈夫?」

「大丈夫です。」

「前もそれ言ってた。」

「前?」

「酔っ払って男に警察呼ぼうとしてたとき。」

「あれは正当な対応です。」

「まだ言う?」

「間違っていません。」

隣にいた詩織ちゃんが小さく笑った。
凛の頬は少し赤くなっていた。
これはたぶん。
酔ってる。

「凛ちゃん、水飲む?」

「いりません。」

「飲んどきなって。」

「佐藤くん。」

「ん?」

「前から疑問だったんですけど。」

「何?」

凛が俺を見た。

「なんで私なんですか?」

「何が?」

「好きな人です。」

「ああ。」

凛は少し眉を寄せた。

「あなた、女性には困っていないでしょう。」

「まあ。」

「その返答、腹が立ちますね。」

「凛ちゃんが聞いたんじゃん。」

「そうですけど。」

やっぱり酔ってる。

普段なら、こんなこと聞いてこない。

「で?」

「ん?」

「なんで私なんですか。」

「好きだから。」

「答えになっていません。」

「じゃあ何て答えればいいの?」

「私のどこが好きなんですか。」

「いっぱいあるよ。」

凛が少しだけ目を細めた。

「例えば?」

「頭いい。」

「はい。」

「自分で認めるんだ。」

「事実なので。」

「そういうとこ。」

「何がですか。」

「人に合わせないとこ。」

凛は黙った。

俺は指を折りながら考えた。



「あと、友達大事にしてる。」

「普通です。」

「気が利く。」

「そうでしょうか。」

「バーベキューのとき、紙コップ足りなくなったのすぐ気づいてたじゃん。」

凛が少し目を瞬かせた。

「……よく覚えていますね。」

「覚えてるよ。」

他には。

「甘いもん食ってるとき分かりやすい。」

「それは長所ですか?」

「かわいいから長所。」

「意味が分かりません。」

「笑った顔もかわいい。」

「…………。」

「小さい。」

「それは長所ではありません。」

「俺は好き。」

「あと?」

まだ聞くんだ。

「胸でかい。」

「最低ですね。」

「冗談。」

「絶対に本音でしょう。」

「本音ではある。」

「やっぱり最低です。」

俺は笑った。
凛は呆れたように俺を見ていた。
でも、席を立つ気はないらしい。

「あとさ。」

「まだあるんですか。」

「嫌なこと、ちゃんと嫌って言うじゃん。」

凛が俺を見た。

「普通では?」

「そうでもないよ。」

今まで付き合った女の子のことを思い出した。
俺が何か言っても、その場では笑っていた。
それなのに、あとになって怒られたり。
別れるときになって、ずっと嫌だったと言われたり。
そういうことが結構あった。

「凛ちゃん、最初からずっと俺に失礼って言うし。」

「実際、失礼なので。」

「うん。」

「そこは否定してください。」

「でも、そういうとこ好き。」

凛は黙った。

「俺が何言っても、嫌なら嫌って言うし。違うと思ったら違うって言うじゃん。」

「……。」

「だから凛ちゃんと喋ってると楽しい。」

最初は、それがおもしろかった。
何を言っても返してきた。
俺が失礼なことを言えば、なんで失礼なのかまで説明してきた。
それで気になった。
見かけると話しかけるようになった。
気づけば。

「まあ、いっぱいあるけど。」

「はい。」

「知るたび増える。」

凛が黙った。

「最初は喋ってておもしろいだけだったけど。今は前より好きなとこ増えてる。」

「…………。」

「だから、どこが好きって聞かれても困る。」

凛はしばらく俺を見ていた。
それから、ぽつりと言った。

「……意外ですね。」

「何が?」

「佐藤くんって、意外と人のいいところを見ているんですね。」

「意外とって何。」

「もっと適当に人と付き合っているのかと思っていました。」

「ひどくない?」

「友達が多い理由、少し分かった気がします。」

「そう?」

「はい。」

凛はグラスを持ち上げた。

「人のいいところを見つけるのが上手なんですね。」

「考えたことなかった。」

「でしょうね。」

「何で分かんの?」

「佐藤くんなので。」

意味分かんねえ。
でも。
なんか褒められた気がする。

「じゃあさ。」

「何ですか。」

「凛ちゃんは俺のいいところ、何個知ってる?」

凛の動きが止まった。

「…………。」

「ある?」

「今は私の質問の時間です。」

「もう答えたじゃん。」

「では、質問は終わりです。」

「逃げた。」

「逃げていません。」

「じゃあ一個。」

「嫌です。」

「一個だけ。」

「しつこいです。」

そう言って、凛は俺から顔を逸らした。
でも。
少し赤くなった耳は、たぶん酒のせいだけじゃない。