ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

夏休み前、最後のサークルの飲み会があった。
大学近くの居酒屋には、いつもより多くの学生が集まっていた。

「夏樹、それ。」

席に着いた田中が、俺のバッグを指差した。

「ん?」

「キーホルダー。」

「ああ、これ?」

待ってました。
俺はバッグにつけた犬のキーホルダーを持ち上げた。

「凛ちゃんにもらった。」

「……知ってる。」

「俺に似てると思って買ったんだって。」

「それも聞いた。」

「かわいくない?」

「バッグ変えても絶対付けてんのな。」

「だって凛ちゃんが俺にくれたんだよ?」

向かいに座っていた小川が犬を見た。

「似てる。」

「だろ?」

「間抜けな顔が。」

「そこ?」

俺はキーホルダーを見た。
たれ目で、口を開けて楽しそうに笑っている。

「凛ちゃんは、たれ目でいつも楽しそうなところが似てるって言ってた。」

「嬉しそうだな。」

「めっちゃ嬉しい。」

小川は「ふーん。」とだけ返した。

そのとき。

「佐藤じゃん。久しぶり。」

通りかかった知り合いに肩を叩かれた。

「おー、久しぶり。」

「何それ。犬?」

「あ、これ?」

俺はまたキーホルダーを持ち上げた。

「好きな子にもらった。」

田中が頭を抱えた。

「また始まった。」

「何が?」

「もう今日何人目だよ。」

「聞かれたから答えてるだけじゃん。」

「聞かれてないときも言ってただろ。」

そうだっけ。

「夏樹。」

聞き慣れた声がした。
振り返ると、美奈が立っていた。
その隣には詩織ちゃん。
そして、凛もいた。

「あ、凛ちゃん。」

俺はバッグのキーホルダーを見せた。

「見て。つけてきた。」

「……見れば分かります。」

「朝つけた。」

「そうですか。」

「ここなら目立つだろ?」

「別に、どこにつけてもいいですが。」

美奈が笑った。

「凛、夏樹さっきから会う人全員にそれ自慢してるよ。」

凛が俺を見た。

「……なぜですか。」

「嬉しいから。」

「ただのキーホルダーでしょう。」

「凛ちゃんがくれたやつじゃん。」

凛は少し黙った。

「そんなに喜ぶとは思いませんでした。」

「じゃあもっと高いやつでもよかったよ。」

「調子に乗らないでください。」

「次は何くれる?」

「もうあげません。」

「えー。」

美奈が凛の隣で吹き出した。
美奈と詩織ちゃんが向かい側に座った。
凛は空いている席を見てから、俺の隣に腰を下ろした。

「凛ちゃん、そこ座るんだ。」

「何か問題でも?」

「ない。むしろ嬉しい。」

「聞いていません。」