ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~


しばらくして。

「私、少し休みます。」

「じゃあ俺も。」

「佐藤くんはまだ遊んでいていいですよ。」

「凛ちゃんいないなら休む。」

「一人でも遊べるでしょう。」

「遊べるけど、今休みたくなった。」

「今決めましたよね。」

「うん。」

結局、二人でパラソルの下のベンチへ座った。
凛がバッグを開く。

「佐藤くん。」

「ん?」

「これ。」

差し出されたのは、小さな犬のキーホルダーだった。

耳が垂れていて、たれ目。
口を開けて楽しそうに笑っている。



「……俺に?」

「はい。」

「マジ?」

受け取って手のひらに乗せる。

「なんで?」

「クレープを奢っていただきましたし、すずらんもいただいたので。この前のデザートも。」

「別に返さなくてもよかったのに。」

「私が気になるので。」

もう一度キーホルダーを見る。

「かわい。」

「そうですか?」

「うん。ちょっと間抜けだけど。」

「そこも似ています。」

「え?」

凛が犬を指差す。

「佐藤くんに。」

「俺?」

「たれ目で、いつも楽しそうなので。」

「俺、犬だと思われてんの?」

「大型犬っぽいとは思っています。」

そこで気づく。

「待って。」

「何ですか。」

「これ見て、俺に似てるって思ったの?」

「そうですが。」

「じゃあ俺のこと思い出したんだ。」

凛が黙る。

「……たまたまです。」

「でも思い出したんでしょ?」

「そういう言い方をしないでください。」

なんか。
めちゃくちゃ嬉しい。

「ありがと。」

「どういたしまして。」

俺はキーホルダーを濡れないようにバッグへしまった。

「大事にするね。」

凛が少しだけ目を瞬かせる。

「……ただのキーホルダーですよ。」

「凛ちゃんがくれたやつじゃん。」

「そうですが。」

「じゃあ大事。」

凛は何も言わなかった。
でも、少しだけ口元が緩んだ。

昼。
六人でフードコートに入った。
飯を食いながら、向かいを見る。
小川と詩織ちゃんが隣同士。

「そういや。」

「何?」

「お前ら今日ずっと一緒にいるよな。」

小川が普通に答える。

「付き合ってるから。」

「……え?」

俺の箸が止まった。

「誰と誰が?」

田中が呆れた顔をする。

「今の話で分かるだろ。」

「小川と詩織ちゃん?」

「うん。」

「付き合ってんの!?」

詩織ちゃんが顔を赤くした。

「……はい。」

「いつから!?」

「最近。」

「なんで俺知らないの!?」

美奈が吹き出す。

「え、夏樹だけ知らなかったの?」

「だけ!?」

凛を見る。

「凛ちゃん知ってた?」

「知っています。」

「田中は?」

「知ってる。」

「俺だけじゃん!」

小川が淡々と言う。

「聞かれなかったから。」

「普通言うだろ!」

田中が笑った。

「お前最近、冬城さんのことしか見てないからじゃね?」

「え。」

凛を見る。

「俺、そんな凛ちゃんばっか見てる?」

「知りません。」

「見てるよ。」

美奈が即答した。

「めちゃくちゃ。」

「マジ?」

凛が小さくため息をつく。

「自覚がなかったんですか。」

「なかった。」

「そういうところですよ。」

午後。
六人乗りのウォータースライダーへ行った。
大きな丸いボートに案内される。

「好きな場所に座ってください。」

係員が言った瞬間。
俺は凛の隣に座った。

「早っ。」

美奈が笑う。
凛が俺を見る。

「田中くんの隣でもいいでしょう。」

「嫌。」

「なんで俺が拒否されんの?」

田中が突っ込む。

「俺、凛ちゃんの隣がいいし。」

凛を見る。

「嫌?」

「……別に。」

「よっしゃ。」

「声が大きいです。」

結局、凛は移動しなかった。
ボートがゆっくりスタート地点へ上がっていく。
隣には凛。
バッグの中には、凛が俺を思い出して選んだキーホルダー。
朝からいろいろ楽しかったけど。
たぶん今日一番嬉しかったのは。
プールでも。
スライダーでもなく。
あの犬だった。