ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~


七月上旬。
昼休み。
私は詩織と美奈の三人で、学食の端の席に座っていた。

「で?」

向かいに座った美奈が、にやにやしながら私を見る。

「夏樹と今どんな感じなの?」

「別に。前と変わってないよ。」

「ほんとに?」

「ほんと。」

そう答えると、隣の詩織が首を傾げた。

「でも、一緒にご飯食べる回数は増えたよね。」

「それは……佐藤くんから連絡が来るから。」

「ちゃんと行ってるじゃん。」

美奈が笑う。

「誘われたら断る理由もないし。」

「へえ。」

「何、その顔。」

「別にー?」

絶対に別にではない。
美奈は楽しそうに笑ったあと、今度は詩織を見る。

「まあ、詩織も小川と付き合ったもんねー。」

「ちょっと。」

詩織の顔が分かりやすく赤くなった。

「今は凛の話でしょ。」

「だって、いつの間にって感じじゃん。」

「美奈。」

「はいはい。」

私は二人のやり取りを眺めながら、ストローでアイスティーを混ぜる。
小川くんと詩織が付き合い始めたのは、つい最近らしい。
詳しく聞いても詩織はあまり話してくれなかった。
美奈は楽しそうだけど。
私は、ふと思い出す。

佐藤くん。
そういえば。
クレープを食べたときは、佐藤くんが払った。
すずらんも貰った。
この前二人で食事に行ったときも、デザートを奢ってもらった。

「…………。」

私。
一度も何も返していない。

「どうしたの?」

詩織が私を見る。

「いや。」

少し考える。

「佐藤くんって、アルバイトしてるの?」

「夏樹?」

美奈が答えた。

「してるよ。いつもサークルで集まる居酒屋。」

「そうなんだ。」

知らなかった。

「意外?」

「少し。」

「なんで?」

「いつも大学にいるときか、サークルの集まりでしか会わないから。」

考えてみれば、大学の外で佐藤くんが何をしているのか、私はほとんど知らない。
知っているのは。
友達が多い。
甘いものは普通に食べる。
雨が嫌い。
思ったことを全部口にする。
あと。

「凛?」

「何?」

「なんか考えてた?」

「別に。」

美奈がまた、にやにやする。

「その顔やめて。」

「何も言ってないけど?」

「顔が言ってる。」

そのとき、詩織のスマートフォンが震えた。
画面を見て、詩織が言う。

「小川くんたち、今から来るって。」

「たち?」

「田中くんも。」

「夏樹は?」

美奈が聞く。
詩織がメッセージを確認する。

「佐藤くんは午後からだって。」

「珍しいね。」

「昨日バイト遅くまで入ってて、朝起きられなかったらしいって。」

「あー、なるほど。」

美奈が笑った。

しばらくすると、田中くんと小川くんがやってきた。

「おつかれ。」

「こんにちは。」

田中くんが私の向かいに座る。
小川くんは自然に詩織の隣へ座った。

詩織も特に気にする様子はなく、そのまま少し身体を寄せて場所を空ける。

「……仲いいんだね。」

「え?」

「二人。」

詩織が少しだけ照れたように笑った。
なんとなく、前より距離が近くなった気がする。
まあ、付き合っているんだから当然なのかもしれない。
ちょうど二人に聞きたいことがあった。

「田中くん、小川くん。」

「ん?」

「何?」

「佐藤くんって、何が好きなんですか?」

二人が同時に私を見る。

「……何がって?」

田中くんが聞き返す。

「好きなものです。食べ物でも、物でも。」

田中くんと小川くんが顔を見合わせた。

「なんで?」

「今まで、クレープを奢ってもらったり、花をいただいたりしているので。」

「花?」

田中くんが少し笑う。

「そういや、あいつ買ってたな。」

「この前もデザートを奢ってもらいました。」

数えてみると、やっぱり貰ってばかりだ。

「なので、何かお返しをしたいんです。」

二人がまた顔を見合わせる。
何なのだろう。

「冬城さんからもらったら、あいつ何でも嬉しいんじゃない?」

田中くんが言う。

「何でも?」

「たぶん。」

「それが一番困るんですけど。」

具体的なものを聞きたい。
すると、小川くんが隣の詩織を見る。

「俺も詩織からなら何でも嬉しい。」

「小川くん。」

詩織が小さな声で名前を呼ぶ。
頬が赤い。
田中くんがすぐに突っ込んだ。

「急にのろけんなよ!」

「聞かれたから。」

「お前には聞いてねえよ!」

「似たような話だったし。」

小川くんは相変わらず無表情だった。
詩織だけが恥ずかしそうに俯いている。
美奈は隣で楽しそうに笑っていた。

「うーん。」

私は腕を組む。

「何でもいいと言われると困りますね。」

「本人に聞けば?」

田中くんが言う。

「それでは、お返しの意味がないでしょう。」

「確かに。」

「佐藤くんが欲しいもの……。」

全然思いつかない。
そもそも、あの人が物を欲しがっているところを見たことがない。

「そういやさ。」

田中くんがスマートフォンを取り出した。

「今度の土曜から、みどり丘ランドのプール始まるらしいよ。」

「プール?」

美奈が食いつく。

「行きたい!」

「だと思った。」

田中くんが笑う。

「夏樹も誘って、みんなで行かない?」

「いいじゃん。詩織も行くよね?」

「私は……。」

詩織が小川くんを見る。
小川くんが言う。

「行くなら俺も行く。」

「だから、そういうの!」

美奈が笑う。
詩織の顔がまた赤くなった。

「凛は?」

「私?」

みんなが私を見る。
プール。
人が多そう。
あまり得意ではない。

でも。
佐藤くんも来るらしい。

「……予定がなければ。」

「よし、決まり!」

「まだ決まってない。」

美奈は聞いていなかった。