ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

六月下旬。
梅雨はまだ明けていない。
今日は雨こそ降っていないけど、空は朝からずっと曇っていた。
あれから、凛とは一緒に飯を食うことが増えた。
まあ、二人きりで食ったのはあの日だけだけど。

俺から連絡して、凛と詩織ちゃん。
そこに田中と小川が混ざったり、美奈が来たり。

なんとなく、昼になったら一緒に飯を食うことが増えていた。
今日も凛ちゃんと詩織ちゃん、それに田中と小川で飯を食うことになっている。

「凛ちゃん、まだ授業終わんないかな。」

法学部棟の廊下で壁にもたれながら言う。

「腹減った。」

「俺も。」

田中が言う。

「先に学食行く?」

「ダメ。凛ちゃん待つ。」

「五分くらいだろ。」

「五分でも先に行ったら置いてったみたいじゃん。」

小川が俺を見る。

「お前、そういうの気にするんだ。」

「気にするだろ。」

「前はしてなかった。」

「前は前。」

「便利だな、その言葉。」

そんなことを話していると。

「あの。」

声をかけられた。
振り返る。
女の子が二人立っている。

「あ、佐藤くん。」

「うん?」

どっかで見たことある。
どこだっけ。

「前にもここにいましたよね。」

「あ。」

思い出した。
この前、凛の授業が終わるのを待ってたときに話しかけてきた子だ。

「よかったら、連絡先交換してくれませんか?」

「連絡先?」

「はい。」

少し前の俺なら、たぶん普通に交換してた。
別に断る理由もないし。

でも。

「ごめん。今はいいや。」

女の子が少し驚いた顔をした。

「え。」

「交換しないんですか?」

「うん。」

「なんでですか?」

なんで。
少し考える。
別に困るわけじゃない。
連絡先が増えたところで、何かあるわけでもない。
でも。

「好きな子いるから。」

そう言うと、女の子二人が顔を見合わせた。
後ろで田中が小さく息を吐いたのが聞こえた。

「……夏樹。」

「何?」

「いや、何でもない。」

女の子が俺を見る。

「彼女ですか?」

「違う。」

「じゃあ、片思い?」

「うん。振られた。」

「振られたんですか?」

「めっちゃ普通に。」

「振られたのに、まだ好きなんですか? 」

「振られたら好きじゃなくなるもんなの? 」

二人がまた顔を見合わせる。
何でそんな不思議そうな顔すんだろ。

「好きな子って……誰ですか?」

「あ。」

ちょうどそのとき。
講義室の扉が開いた。
学生がぞろぞろと廊下へ出てくる。
その中に。
見慣れた黒髪。
小さい。
すぐ分かる。

「凛ちゃん。」

女の子たちも俺の視線を追った。

「え。」

凛と目が合う。
その隣には詩織ちゃんがいた。

「凛ちゃーん。」

手を振る。
凛がこっちを見る。



「……こんにちは。」

なんか。
一瞬だけ反応が遅かった気がする。
俺はそのまま女の子たちから離れて、凛のところへ向かった。

「授業終わった?」

「今出てきたところですが。」

「見れば分かるか。」

「はい。」

「じゃ、飯行こう。」

そう言って歩き出そうとすると。

「佐藤くん。」

凛に呼ばれた。

「ん?」

佐藤くん。
まだちょっと嬉しい。

「断っていいんですか。」

「何を?」

「連絡先です。」

あ。
聞いてたんだ。

「いいのいいの。」

「人脈づくりのチャンスなのに。」

「それ凛ちゃんだろ。」

「あなたは、交友関係を広げるのが得意でしょう。」

「まあ。」

俺はさっきの女の子たちを見る。
もう向こうへ歩いていっていた。

「今、新しく女の子と連絡先交換しても、あんま意味なくない?」

「なぜですか。」

「凛ちゃんに猛アタック中だし。」

「…………。」

「他の女の子と連絡してる暇あったら、凛ちゃんと喋りたいじゃん。」

凛が黙った。
隣で詩織ちゃんが俺と凛ちゃんを交互に見る。
その隣には小川がいて、いつも通り無表情だ。
田中は少し離れたところで頭を押さえている。

「凛ちゃん?」

「……何ですか。」

「なんか言ってよ。」

「何を言えばいいんですか。」

「嬉しいとか。」

「なぜですか。」

「俺が凛ちゃん一筋だから。」

「私は頼んでいません。」

「ひど。」

「それに。」

凛が俺を見る。

「本人がいる前で、そういうことを普通に言うんですね。」

「だって本当だし。」

「そういうところですよ。」

また言われた。

「凛ちゃん、聞いてたんだ。」

「聞こえただけです。」

「好きな子誰って聞かれたところも?」

「……聞こえました。」

「俺、凛ちゃんって言ったよ。」

「聞こえました。」

「どうだった?」

「何がですか。」

「嬉しかった?」

「別に。」

即答。

「えー。」

「そもそも、以前から知っています。」

「そうだけどさ。」

俺、告白してるし。
振られてるし。

「でもさ。」

「なんですか。」

「俺、結構本気だよ。」

凛が足を止めた。

ほんの一瞬。
俺を見る。

「……それも、知っています。」

「え。」

今度は俺が止まった。
凛はそのまま歩いていく。

「凛ちゃん。」

「なんですか。」

「今のちょっと嬉しい。」

「知りません。」

「待ってよ。」

追いかける。
その隣で詩織ちゃんが、ほんの少し笑った。
後ろから田中の声がする。

「夏樹、飯行くんだろ。」

「あ、行く。」

俺は凛の隣に並ぶ。
振られてから、もう何週間か経った。
凛が俺を好きになったわけじゃない。

たぶん、まだ全然。

でも。
俺が本気だってことは。
ちゃんと伝わってるらしい。

それならまあ。
今日はそれでいいか。