ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

告白した次の日。
授業が始まる少し前。
俺は田中、小川と三人で講義室にいた。

「田中、今日なんか顔疲れてね?」

「昨日バイトだったから。」

「だからか。いつもより三歳くらい老けてる。」

「具体的に言うな。」

「そういえば。」

田中が俺を見た。

「昨日、冬城さん見つかったの?」

「見つかった。」

「で?」

「告白した。」

「は?」

田中が固まった。

小川もスマホから顔を上げた。

「凛ちゃんに。」

「それは分かる。」

田中が額を押さえた。

「昨日、早まるなって言ったよな?」

「言ってた。」

「で、行ったの?」

「うん。」

「……どうだった?」

小川が聞いた。

「振られた。」

「早。」

「ほぼ即。」

「だから言っただろ!」

田中が頭を抱えた。

「でも、いい感じ。」

「どこが!?」

「連絡先交換した。」

「……振られたあとに?」

「うん。」

田中が黙った。

「なんで?」

「凛ちゃん、人脈づくりしてるから。」

「意味分かんねえ。」

「俺と繋がったら人脈一人増えるじゃん。」

「それで押し切ったの?」

「押し切った。」

小川がぼそっと言った。

「強い。」

俺はスマホを取り出した。
昨日追加されたばかりの名前。
冬城凛。
それを見ると、なんかちょっと嬉しい。

「何にやけてんの。」

「にやけてない。」

「いや、にやけてる。」

「連絡先あるの便利だなと思って。」

「便利って言い方やめろ。」

「だって、もう美奈に居場所聞かなくていいし。」

「そこじゃねえよ。」

田中がため息をついた。
俺はスマホを机に置いた。

「でさ。」

「まだ何かあるの?」

「どうしたら俺のこと好きになってくれるかな?」

田中と小川が黙った。

「何?」

「いや。」

田中が俺を見た。

「お前がそんなこと考えるようになるとは思わなかった。」

「俺だって考えるわ。」

「今まで考えたことなかっただろ。」

「なかった。」

好きだと言われたら付き合う。
かわいいと思ったら付き合う。
今までは、それでよかった。
でも凛ちゃんは俺のことを好きじゃない。

だったら。
好きになってもらうにはどうしたらいいのか、考えないといけない。

「とりあえず。」

小川が言う。

「一緒にいる時間増やせば?」

「どうやって?」

「飯とか。」

「あ。」

それだ。
俺はすぐにスマホを手に取った。

「今送るの?」

「うん。」

凛とのトーク画面を開いた。

『今日、一緒に飯食わない?』

送信。

「返事来るかな。」

「授業前なんだから待てよ。」

田中が言った直後、スマホが震えた。

「あ、来た。」

『いいですよ。ただ、詩織も一緒ですが。』

「よっしゃ。」

「何が?」

「いいって。」

俺はそのまま返信する。

『じゃあ俺も田中と小川連れてく!』

「待て。」

田中が俺のスマホを見る。

「なんで俺らまで決定してんの。」

「いいじゃん。」

「予定聞けよ。」

俺は小川を見る。

「暇?」

「暇。」

「ほら。」

「俺は?」

「田中も暇だろ?」

「……まあ。」

「じゃあ決まり。」

「お前ほんと勝手だな。」


昼休み。
俺たちは学食で凛と詩織ちゃんに合流した。

「凛ちゃーん。」

手を振る。

「こんにちは。」

「昨日ぶり。」

「そうですね。」

隣にいた詩織ちゃんも軽く頭を下げる。

「こんにちは、佐藤さん。」

「詩織ちゃんも久しぶり。」

「数日前に会っています。」

「そうだっけ?」

「そういうところですよ。」

凛が言った。
五人で空いているテーブルに座った。
俺の向かいに凛。
その隣が詩織ちゃん。
詩織ちゃんの隣に小川。
俺の隣に田中。
飯を食べながら適当に話していると。
「田中くん。」

凛が口を開いた。

「そこの醤油、取ってもらえますか。」

「あ、どうぞ。」

田中が醤油を渡した。

「ありがとうございます。」

俺の箸が止まった。

「……え?」

「何?」

田中がこっちを見た。
いや。
今。

「凛ちゃん。」

「なんですか。」

「今、田中のことなんて呼んだ?」

「田中くん。」

「……くん?」

「はい。」

俺は小川を見る。

「小川は?」

「小川くんですが。」

小川が顔を上げる。

「何。」

「いや。」

俺はもう一度、凛を見た。

「俺は?」

「佐藤さん。」

「なんで!?」

思ったより大きい声が出た。
凛が少し眉を寄せた。

「何がですか。」

「なんで田中と小川はくん付けなのに、俺だけさんなの?」

「そう呼んでいるからですが。」

「いつから?」

「バーベキューのときからです。」

「え?」

あの日から?

「なんで?」

「普通に話したので。」

「俺も普通に話したじゃん。」

「あなたとの会話を普通と呼んでいいのかは疑問ですが。」

「ひど。」

俺は田中を見る。

「お前知ってた?」

「何を?」

「凛ちゃんに田中くんって呼ばれてんの。」

「まあ。」

「なんで教えないんだよ。」

「教える必要ある?」

あるだろ。
たぶん。
俺は小川を見る。

「小川も?」

「うん。」

「なんで二人だけ。」

「知らん。」

小川はどうでもよさそうに飯を食べている。
俺は凛を見た。

「俺も佐藤くんって呼んで。」

「嫌です。」

「なんで?」

「今のままで困っていないので。」

「俺が困ってる。」

「知りません。」

「俺のほうが田中と小川より凛ちゃんと喋ってるじゃん。」

「そうですね。」

「じゃあ俺もくんでよくない?」

「その理屈は分かりません。」

「なんで二人より俺のほうが遠いの?」

「呼び方だけですよ。」

「その呼び方が気になるんだって。」

田中が隣で笑う。

「お前、そんなことで嫉妬してんの?」

「嫉妬じゃねえし。」

「じゃあ何?」

「……俺だけ遠い感じする。」

言ってから、自分でもしっくりきた。
凛が俺を見た。

「呼び方だけですよ。」

「じゃあ変えてもいいじゃん。」

「嫌です。」

「じゃあ一回、佐藤くんって言って。」

「嫌です。」

「一回だけ。」

「……。」

「お願い。」

凛が小さくため息をついた。

「……佐藤くん。」

「お。」

思わず笑う。
なんだこれ。
思ってたより嬉しい。



「じゃあ、夏樹くんでもいいよ。」

「なぜさらに距離を縮めようとするんですか。」

「そっちのほうが仲良さそうじゃん。」

「却下です。」

「即答。」

「佐藤くんで十分です。」

「じゃあ今日はそれでいいや。」

「今日は?」

「うん。」

凛が嫌そうな顔をした。

「明日以降も佐藤くんです。」

「分かんないじゃん。」

「分かります。」

「そのうち夏樹くんになるかもしれないし。」

「なりません。」

「まだ分かんないって。」

「分かります。」

「じゃあ賭ける?」

「何をですか。」

「いつ夏樹くんになるか。」

「なりませんから賭けになりません。」

詩織ちゃんが隣でくすっと笑った。
田中は呆れた顔をしている。
小川は何事もなかったように飯を食べている。
俺だけが、たぶんめちゃくちゃ機嫌がいい。

振られた次の日。
どうしたら凛ちゃんが俺を好きになるのかは、まだ分からない。

でも。
昨日まで佐藤さんだった俺は。
今日から佐藤くんになった。
それだけで、なんか少し。
距離が近くなった気がした。