ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

「どうしたら俺のこと好きになる?」

凛が黙った。

その日初めて、少しだけ困った顔をした。

「……知りません。」

凛はそう言った。

俺にも分からなかった。
誰かを好きになったのだって、初めてだった。

まあ、分からないなら、これから考えればいい。

「じゃあ、とりあえずさ。」

「なんですか。」

「連絡先交換しない?」

凛が俺を見た。

「……なぜですか。」

「え?」

「なぜ告白を断った直後に、連絡先を交換する流れになるんですか。」

「だって俺、凛ちゃんの連絡先知らないし。」

「それは知っています。」

「今日も探すの、めっちゃ大変だった。」

「それはあなたの都合ですよね。」

「でも凛ちゃん、人脈づくりしてんだろ?」

凛が少し黙った。

「……していますが。」

「俺、友達多いよ。」

「自分で言うんですね。」

「事実だし。」

大学を歩いていれば、だいたい誰かに声をかけられた。
サークルにも知り合いは多かった。

「俺と繋がっとけば、人脈増えるじゃん。」

「あなたを窓口にするつもりはありません。」

「でも、連絡先一人増えるよ?」

「…………。」

「ほら。人脈一人分。」

凛はしばらく俺を見たあと、小さくため息をついた。

「……分かりました。」

「マジ?」

「人脈づくりです。」

「はいはい。」

俺たちはスマホを取り出し、連絡先を交換した。

画面に表示された名前。
冬城凛。

それだけで、少し嬉しくなった。

「送った。」

「来ました。」

これで、美奈に居場所を聞かなくても直接連絡できる。

「あとさ。」

「まだ何かあるんですか。」

「敬語やめにしない?」

凛が俺を見た。

「なぜですか。」

「俺、ずっとため口じゃん。」

「それはあなたが勝手にそうしているだけです。」

「俺ら、結構喋ってるし。」

「あなたと私は、あまり親しくないので、敬語がちょうどいいかと。」

「え?」

思わず凛を見た。

「あんま親しくないの?」

「はい。」

「クレープ食ったじゃん。」

「食べましたね。」

「バーベキューも一緒だった。」

「大人数でしたが。」

「俺の肩で寝た。」

凛の動きが止まった。

「……それは忘れてください。」

「なんで?」

「寝ていただけなので。」

「あと、花もあげた。」

「いただきました。」

「で、今日告白した。」

「断りました。」

「そこ強調すんなよ。」

凛は真顔のままだった。

「じゃあさ、凛ちゃんの『親しい』って、どこから?」

「そう聞かれても困ります。」

「友達になったら?」

「少なくとも、あなたを友人だと認識した覚えはありません。」

「マジ?」

結構仲いいと思ってた。

そのとき。

「夏樹ー!」

後ろから声がした。

振り返ると、同じサークルの女の子がこちらへ歩いてきた。
明るい茶髪に、派手めの服。
何度か一緒に飲んだことがあった。

「何してんの?」

「喋ってる。」

「見れば分かるって。」

女の子は笑いながら、俺の腕にぴったりとくっついた。

「ねえ、今日暇?二人で飲みに行かない?」

「今日は行かない。」

「えー、なんで?」

「この子、口説いてる途中だから。」

「誰をですか。」

凛が即座に聞いた。

「凛ちゃん。」

「私は先ほど断りましたよね。」

「うん。」

「では、口説いている途中ではなく、振られたあとでは?」

「まだ終わってなくね?」

「終わっています。」

「俺は終わってない。」

「あなた一人の意思では決められません。」

「じゃあ、どうしたら終わる?」

「諦めれば終わります。」

「じゃあ、終わんないわ。」

「…………。」

凛が呆れた顔をした。
隣の女の子が、俺たちを交互に見た。

「え、この子?」

「うん。」

「夏樹、こういう子が好きだったんだ。」

「俺も知らなかった。」

本当に知らなかった。
そもそも、自分から誰かを好きになったことがなかった。

女の子が凛を上から下まで見た。

「ていうか、めっちゃちっちゃくない?」

「小さいよ。」

「子供みたい。」

その言葉が、なんとなく引っかかった。

「お前、口悪くね?」

俺は笑って言った。
いつもみたいに。



でも、女の子の顔から笑みが少し消えた。

「……え?」

「子供みたいとか、普通に失礼じゃん。」

口元は笑っていた。
それなのに、凛は俺の顔をじっと見ていた。

「夏樹がそれ言う?」

「え?」

凛が静かに口を開いた。

「初対面では、中学生と言われました。」

「あ。」

「その後、胸を見て大学生だと判断されました。」

「それ、まだ覚えてんの?」

「忘れる理由がありますか。」

女の子が吹き出した。

「夏樹のほうが失礼じゃん。」

「いや、でも。」

なんだろう。
同じではない気がした。

「俺は馬鹿にして言ってないし。」

「結果として失礼であることに変わりはありません。」

「それはそうだけど。」

「認めるんですね。」

「凛ちゃんに言われたら、認めるしかないじゃん。」

「最初から余計なことを言わなければいいんです。」

「それができたら苦労してない。」

「改善してください。」

「頑張ります。」

「本当に?」

「たぶん。」

「信用できません。」

「ひど。」

女の子はしばらく俺たちを見ていた。
それから、俺の腕を離した。

「……もういいや。二人で喋ってれば?」

「飲みは?」

「行かないんでしょ?」

「うん。」

「じゃあね。」

女の子は呆れたように笑い、手を振って歩いていった。

凛も何事もなかったように歩き出した。
俺はその隣に並んだ。

少し歩いたところで、凛が口を開いた。

「佐藤さん。」

「ん?」

「佐藤さんって、怒るんですね。」

「え?」

「さっき、私のことを言われたとき。」

「ああ。」

「笑っていましたけど、目が笑っていませんでした。」

「マジ?」

「自覚なかったんですか。」

「なかった。」

怒ったつもりはなかった。
ただ、ああいう言い方をされるのが嫌だった。

「なんか、嫌だったんだよ。」

「何がですか。」

「凛ちゃんのこと、馬鹿にしてる感じ。」

「あなたも普段、かなり失礼ですが。」

「俺は馬鹿にしてないし。」

「……そうですね。」

「え。」

思わず凛を見た。

「何ですか。」

「いや。今、認めた?」

「あなたが失礼なのは事実です。」

「そこは変わんないんだ。」

「ただ、悪意がないことも分かってきました。」

「……それ、褒めてる?」

「半分くらいは。」

俺は笑った。
凛は少しだけ黙った。

「……でも。」

「ん?」

「ありがとうございました。」

俺は思わず足を止めた。

「え。」

「何ですか。」

「今、普通にお礼言った?」

「言いました。」

「凛ちゃんが?」

「取り消しましょうか。」

「待って。それはやめて。」

凛は小さくため息をつき、また歩き出した。
俺もその横に並んだ。

振られたばかりだったけど。

少なくとも。
初めて会ったころよりは、嫌われていない気がした。