昼休み。
法学部棟の近くまで行くと、ちょうど凛が一人で歩いてきた。
「凛ちゃーん。」
手を振ると、凛が俺を見た。
「こんにちは。」
「はい。」
「何、その反応。」
「普通の挨拶ですが。」
「もうちょっと嬉しそうにしてよ。」
「なぜですか?」
相変わらずだった。
俺は背中に隠していた花束を出した。
「はい。」
凛が足を止めた。
「……何ですか、それ。」
「花。」
「それは分かります。」
今日で二回目だな、これ。
「凛ちゃんに。」
「…………。」
凛の視線が、花束から俺の顔へ移った。
「なぜですか?」
「プレゼント。」
「ですから、なぜ私に花を?」
警戒してる。
「いらない?」
「そういうことではなくて。」
「じゃあ、あげる。」
花束を差し出した。
凛はすぐには受け取らなかった。
白い花をじっと見つめた。
「……すずらん。」
「知ってるんだ。」
「それくらいは。」
凛はもう一度、花を見た。
さっきまでの警戒した表情が、少しだけ柔らかくなった。
「かわいい。」
小さく呟いた。
「だろ?」
「……ありがとうございます。」
凛が花束を受け取った。
「お。」
「何ですか?」
「受け取った。」
「差し出されたので。」
「いらないって言うかと思った。」
「花に罪はありませんから。」
「俺にはあるみたいな言い方すんなよ。」

凛は手元の花束を眺めていた。
なんか。
やっぱり似合うな。
「でも。」
凛が俺を見た。
「どうして急に花なんですか?」
「大学に来る途中に花屋があって。」
「はい。」
「これを見つけた。」
俺は、凛が持っているすずらんを指した。
「凛ちゃんみたいだなと思って。」
凛の眉が少し動いた。
「……小さいってことですか?」
「そう。」
「やっぱり。」
「あと。」
「まだあるんですか?」
「凛としてて、かわいい。」
「…………。」
凛が俺を見た。
なんとも言えない顔をしていた。
「何?」
「あなたは……。」
凛が小さく息をついた。
「そういうことを普通に言うんですね。」
「だって、そう思ったし。」
「…………。」
凛は手元の花へ視線を落とした。
そして、ふんわりと笑った。
「あ。」
「何ですか?」
「また笑った。」
凛はすぐに真顔へ戻った。
「笑っていません。」
「いや、今めっちゃ笑った。」
「気のせいです。」
「絶対笑ったって。」
「しつこいです。」
そう言いながらも、凛は花束を大事そうに持っていた。
俺はそれを見て笑った。
花、買ってよかったかも。
……というか。
最近、凛ちゃんが俺の前で笑うこと、増えたな。



