君が感情をくれたから

 「・・・ぎ、凪」
 誰かに体を揺すられて目を覚ますと、微笑んでいる父さんと目が合った。
 「おはよう、今日から新しい学校だぞ」
 「・・・?」
 目をこっすて起き上がる。
 ナイトテーブルに置いてある時計を手に取って見ると、6時を過ぎていた。
 「あぁ」
 引っ越しをした翌々日、今日から学校だ・・・。
 「朝ご飯出来てるから、支度したらすぐに降りて来いよ」
 「うん・・・」
 クロッゼートを開けて、新品の制服を取り出す。
 ブレザーなんだ・・・。
 昨日父さんから制服をもらったときはよく見ないままクローゼットにしまったけど、どうやら新しい制服はブレザーらしい。
 前の学校は学ランだったから、なんだか新鮮だ。
 これでいいかな・・・?
 姿見で確認すると、顔に何の感情も浮かんで浮かんでいない自分と目が合った。
 相変わらずの無表情だな・・・。
 そんな自分に嫌気がさして、鏡から目を背ける。
 「・・・」
 一瞬、胸がチクリと痛んだ気がしたけどきっと気のせいだ・・・。
 僕は、感情がないロボット人間なんだから。
 
 「送ってかなくて大丈夫なのか?」
 父さんが僕のことを心配そうな目で見てくる。
 もう小さい子じゃないのに・・・。
 「大丈夫、道は分かるから。じゃあ、行ってきます」
 そう言って僕は家を後にした。
 
 「おはよう!」
 「うん、おはよ~」
 学校に近づくにつれ、僕と同じ制服を身にまとった人が増えてきた。
 きっと、この人達は僕の転校先の仙名中学校の生徒なのだろう。
 「おっはよう‼」
 歩いていると、突然近くで大きな声が聞こえた。
 びっくりして反射的に声がした方を見ると、可愛らしい笑顔の少女が友達か誰かに話しかけているところだった。
 すると、彼女の周りに人が集まり始めた。
 「彩葉、おはよう!」
 「彩葉じゃん」
 「今日は来たんだ!」
 「うん。みんな、おはよう!」
 少女、彩葉さんは人気者なのだろう。
 みんなの中で笑っている彼女は、太陽みたいだった。
 周りにいる人も、嬉しそうに、楽しそうに笑っている。
 僕とは大違いだな。
 人を不快にしか出来ない僕。
 笑うことが出来ない僕。
 前の学校でも、その前の学校でも孤立していた。
 それでも構わないけどね。
 誰かといて楽しいと思ったことがないし、1人でも何も感じないから。
 早く行こう。
 僕は、急ぎ足で学校へ向かった。