君が感情をくれたから

 「凪、着いたぞ」
 「そう・・・」
 本を閉じて車から出ると、目の前には真新しい一軒家が建っていた。
 ここが新しい僕の家だ。
 入ったこともない建物の中でこれから生活すると思うと少し不思議な感じがする。
 「ごめんな、急に引っ越しなんて・・・」
 「別に・・・」
 今回の引っ越しは突然だった。
 友達に別れを告げる間もなく引っ越し準備をして、今日ここに来た。
 まぁ、友達なんていないけど・・・。
 「でも、今回で転勤は最後になるはずだから」
 「そうなんだ」
 僕は転勤族で、昔からいろんなところを転々としてきた。それも、今回で終わりらしい。
 引っ越しは面倒だから、ありがたいけど。
 「じゃあ、荷物運ぶか・・・」
 父さんが、車に詰まった荷物を見て嫌そうな顔をしている。
 僕は黙って、自分の鞄を手に取った。
 「凪は手伝ってくれないのか?」
 「僕の荷物はこれだけだから。残りは父さんの荷物でしょ」
 僕はそう言って父さんからもらっていた家の鍵をズボンのポケットから出して家の扉を開けた。
 中に入ると、ひんやりとした空気を感じる。
 中は薄暗くて、少し不気味だった。
 ガチャンと扉が閉まる音だけが、この暗い空間にやけに冷たく響いていた。

 「凪の部屋は、階段を上がったところだから」
 「分かった」
 部屋の端に置いておいた荷物を持って、二階へ向かう。
 ここかな・・・?
 階段を上がってすぐ、目の前に扉が現れた。
 階段を上がったところだって言ってたし、きっとここだろう。
 扉を開けて中に入ると、ほとんど何もない空間が広がっていた。
 「何からしようかな・・・」
 出来るなら家具は自分でセットしてって父さんは言ってたけど・・・。
 始めるか・・・。
 まずは家具類を移動させて・・・。
 前の家から持ってきた最低限の荷物を鞄を開けて部屋の隅に設置した棚に並べていく。
 本棚には、参考書とかを入れて・・・。
 
 部屋作りと荷物の整理は30分くらいで終わった。
 僕は元々物に執着はあんまりしないし、持ち物と言っても本と洋服くらいだからすぐに終わった。
 「はぁ」
 それでも疲れたからベットに倒れ込んだ。
 仰向けになると、見たことのない天井がそこにはあった。
 引っ越したんだな・・・。
 前の町に思いをはせたけど、やっぱり何も感じなかった。
 「・・・」
 昔からこうだった。誰かとの別れに、過去に何も感じない。
 それは町に思い入れがなかったからなのか、僕だからなのか・・・。
 唐突に眠気が襲ってきて目を閉じると、僕はすぐに眠ってしまった。