――琴乃は教室の空気。
誰にも見向きされず、自分から環境になにか発信することもない。
自分に自信がなくて、やりたいことも好きなこともわからない、そんな透明な子。
ストーリーの中なら、存在を消す演技をすればいい。
でもこれは、そんな琴乃にフォーカスする撮影。
じゃあ、どうするか。
重心が定まらない、辿々しい立ち方。
右足だけ、つま先をちょっと内側に。
胸は張らない、けど背中を丸めることもしない。
“暗い”ではなく“儚い”。姿勢でそんな印象を作る。
自信のなさは、胸に重ねた両手に。
指の力は抜いて、丸く曲線をつくる。
伊達メガネと前髪で瞳が見えにくいから意識的に大きく開くけど、ほんの少し頼りない揺れを混ぜる。
唇は、薄く開いて力を抜く。
言いたいことを言えない、そんなニュアンスがほしい。
「――……あー……いいね、そのまま目線こっちで」
カメラマンが息を呑む。
ポーズ指定を出そうとした言葉を引っ込めて、そのままシャッターを連続で切られる。
「やば……香月さんって、本当に演技上手いんだ……」
「ねー……」
待機中の同世代の共演者たちが、ひそひそ声で噂する。
それを傍で聞いている御手洗が、静かにメガネを指で押し上げた。
手を下ろして、体の角度を変えて、表情に浮く感情を変えて。
次の撮影の説明を受けながらチラリとこちらを伺った紫苑が、楽しそうにふっと笑みを漏らした。



