冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される

 ルシアン・ノクティスという男は、本来、王となる存在ではなかった。別に幼い頃の彼が凡愚だったという訳ではない。彼には10歳の離れた同母兄ラシオンと、同じくらい歳の離れた異母兄たちがいたからだ。

 ルシアンにとってノクティス王国の王位争いは、兄たちのものであり、第四王子という立場の自分には関係ないものだと思っていた。
 
 それは父王が早世し、同母兄(ラシオン)が王となったことで確信に変わり……けれど、そんな幸せな確信は、ある日、脆くも崩れ去った。

 始まりは、いつもと変わらない出来事だった。南都フォルテリアに魔物が出たというのだ。それは、魔の森を擁するフォルテリアでは、珍しくないことで。けれど、その魔物が群れとなり、その中に巨大な魔物まで現れたという報告に変わり。兄王ラシオンの出征に至るまでは驚くほど早かった。

「兄上、俺がフォルテリアに行きます」
「ルシアン、お前の武勇を疑ってはないが、俺に勝るとも思ってない。なに、すぐに魔物など倒して戻ってくる。その間、お前に王城の守りを頼みたい」

 実際、ラシオンは武勇に優れた王だった。ルシアンとの手合わせでは、年齢差があるため当然ながらラシオンが勝ったし、異母兄たちとの手合わせでも、ほぼ負けなしだった。その代わりに机仕事は少し苦手だったが、そこは彼の臣下やルシアン、異母兄たちが補っていた。

 だからルシアンはラシオンの言葉に納得した。
 ——納得してしまった

 その後のことをルシアンは鮮明に覚えている。フォルテリアから届いた兄王(ラシオン)戦死の知らせ、異母兄の出征と魔物討伐の知らせ——異母兄が王位に着くという知らせ。

 そのどれもが嘘のようで——悪夢のようで。ルシアンの本能が違和感を訴える。その訴えのまま、彼はカイルと王城を調べ尽くし——兄の遺体まで調べて、確信した。兄の遺体に残った魔力の残滓は、異母兄のものと同じだった。手慰みに魔術を学んでいて良かった、などと他人事のようにルシアンは思った。

 そこからの彼の行動は早かった。異母兄たちを断罪し、斬首した。罰が重すぎるという、普段の彼なら頷いただろう貴族たちの声は無視した。
 許せなかった。兄を殺した異母兄たちが。——その企みに気づけなかった自分が。

 異母兄たちに味方していた魔術師団長と騎士団長も解任し、カイルを魔術師団長にし、父王に仕えていたローデリックを騎士団長の復帰を願った。そして自らは王となり、国を治めた。兄の代わりに、兄よりも良い治世を目指して。