1 始まり
私は、泥の中に寝そべっている。
ザザーン...ザザーン...。
これは何の音?ノイズ?ううん、ちょっと違う。
何だっけ?寄せては返す、あれ。
そうだ、波だ。
ザザーン...ザザーン...。
暖かい毛布にくるまれているような感じがする。
ただ、心地良い。
このまま、ずっとこうしていたいな...。
不意に、視界がカタカタと揺れた。
何...。 その瞬間、夢の中から引きずり出された。
「...ん、...天ちゃん」
目を開く。 ぼやけた視界の中で、ここは自室だ、とぼんやり思う。
目の前には...
「翠さん...おはよう」
叔母がいた。
「天ちゃん、珍しいね。いつもは1時間に起きてるのに」
時計を見ると、7時。
「朝ごはん、今できたから。支度できたら降りて来てね。」
「うん」
翠さんは微笑むと、扉を閉めて下に降りていく。
着替えをすまして階下に行くと、翠さんが器に味噌汁をよそっていた。
「自分でやるからいいよ」
翠さんから器を受け取り、味噌汁をよそう。
その後、畳敷きの部屋に入る。
そこには、両親の写真が飾ってある仏壇がある。
お鈴を鳴らし、手を合わせる。
その間、翠さんの視線を感じるのもいつものこと。
もう慣れた、朝の日課。
私は席に座ると、翠さんと共に手を合わせて、朝食を食べ始める。
味噌汁をすすると、出汁の効いた汁が、体に染みわたった。
朝食はいつも翠さんの手作り。
毎朝早起きして作ってくれている。
ー本当に、迷惑かけるなぁ...。
翠さんにとっては、不幸以外なんでもない。
両親がいなくなった小さな少女を育てなくてはいけなくなったのだから。
ーそれに...。
ちらりと部屋の隅を見る。
そこには、うっすらと埃をかぶった通学カバンと、もう随分着ていない制服がある。
ー学校もいけない子だし。
行かなくてはいけないのは分かっている。
でも、行けない。
こんな子でも、翠さんは笑みを絶やさず育ててくれる。本当に、なんと言うべきか。
「ごちそうさまでした」
皿を洗い、自室に戻る。
「ふうっ...」
思わずため息が出る。
そろそろ時間だ。
窓辺に立って、なんとなくそこに映る自分を眺める。
あまりぱっとしない見た目だ。
長所といえばぱっちりとした瞳と、頑張ってお手入れしているさらさらな髪くらいだろうか。
1番のお気に入りは、翠さんが誕生日にプレゼントしてくれた星のような形をした虹色の髪飾り。
ぼんやりしていたら、窓の向こうから笑い声が聞こえてきた。
体がこわばる。
急いでカーテンを閉めて、逃げるように後ろに下がった。
いつもこの時間帯は、登校する子達の話し声や、笑い声が聞こえてくる。
この時が、1番嫌だった。
楽しげな笑い声。
私だけ、置いてきぼりにされているような心地になる。
ー実際、そうさせているのは私なんだけど。
またため息をつきそうになる。
それを堪え、机に座って本を開いた。
それから何時間たっただろうか。
疲れた目をしょぼしょぼさせながら、階下に降りた。
翠さんは仕事に行ったのだろう。
机の上にメモが置いてある。
『お昼ご飯は、コンロにある煮物とご飯です。』
とりあえず水を飲もう、と冷蔵庫に向かった。
その時。
机に体がぶつかり、1枚のチラシがひらりと羽のように舞い降ちた。
ー⁇
机の上に戻そうとして、何気なくそのチラシを見る。その瞬間、私は固まった..と思う。
そこには、このようなことがー
『客船 Marin Seep号 少女乗務員募集中‼ 客船 Marin Seep号は、この度リニューアルする運びとなりました。 諸事情により乗務員が不足しておりますので、ぜひ、やる気のある少女の皆さんにお任せしたいと思っています。
食事、住居付き (住み込み)辞めたくなったらいつでもOK! まずはご連絡を!
あなたも、海の旅に出かけませんか?
電話番号xxx−xxxx−xxxx』
「これだ〜っ」
私は思わず叫んでしまった。
翠さんが玄関の扉を開けた瞬間、待ちかまえていた私は、その目の前にチラシを突き出した。
「翠さん...‼これ…」
「天ちゃん、珍しいね。お出迎えなんて久しぶりじゃない。」
「そうじゃなくて!このチラシ、なんであるの?翠さん、チラシ取らないんだよね?」
ようやく翠さんの目がチラシに向く。
「ああ、それ⋯。私の妹が、客船を経営してるの。それで、天ちゃんが、その⋯学校に行ってないことを話したら、それを渡されてね⋯。」
私は、泥の中に寝そべっている。
ザザーン...ザザーン...。
これは何の音?ノイズ?ううん、ちょっと違う。
何だっけ?寄せては返す、あれ。
そうだ、波だ。
ザザーン...ザザーン...。
暖かい毛布にくるまれているような感じがする。
ただ、心地良い。
このまま、ずっとこうしていたいな...。
不意に、視界がカタカタと揺れた。
何...。 その瞬間、夢の中から引きずり出された。
「...ん、...天ちゃん」
目を開く。 ぼやけた視界の中で、ここは自室だ、とぼんやり思う。
目の前には...
「翠さん...おはよう」
叔母がいた。
「天ちゃん、珍しいね。いつもは1時間に起きてるのに」
時計を見ると、7時。
「朝ごはん、今できたから。支度できたら降りて来てね。」
「うん」
翠さんは微笑むと、扉を閉めて下に降りていく。
着替えをすまして階下に行くと、翠さんが器に味噌汁をよそっていた。
「自分でやるからいいよ」
翠さんから器を受け取り、味噌汁をよそう。
その後、畳敷きの部屋に入る。
そこには、両親の写真が飾ってある仏壇がある。
お鈴を鳴らし、手を合わせる。
その間、翠さんの視線を感じるのもいつものこと。
もう慣れた、朝の日課。
私は席に座ると、翠さんと共に手を合わせて、朝食を食べ始める。
味噌汁をすすると、出汁の効いた汁が、体に染みわたった。
朝食はいつも翠さんの手作り。
毎朝早起きして作ってくれている。
ー本当に、迷惑かけるなぁ...。
翠さんにとっては、不幸以外なんでもない。
両親がいなくなった小さな少女を育てなくてはいけなくなったのだから。
ーそれに...。
ちらりと部屋の隅を見る。
そこには、うっすらと埃をかぶった通学カバンと、もう随分着ていない制服がある。
ー学校もいけない子だし。
行かなくてはいけないのは分かっている。
でも、行けない。
こんな子でも、翠さんは笑みを絶やさず育ててくれる。本当に、なんと言うべきか。
「ごちそうさまでした」
皿を洗い、自室に戻る。
「ふうっ...」
思わずため息が出る。
そろそろ時間だ。
窓辺に立って、なんとなくそこに映る自分を眺める。
あまりぱっとしない見た目だ。
長所といえばぱっちりとした瞳と、頑張ってお手入れしているさらさらな髪くらいだろうか。
1番のお気に入りは、翠さんが誕生日にプレゼントしてくれた星のような形をした虹色の髪飾り。
ぼんやりしていたら、窓の向こうから笑い声が聞こえてきた。
体がこわばる。
急いでカーテンを閉めて、逃げるように後ろに下がった。
いつもこの時間帯は、登校する子達の話し声や、笑い声が聞こえてくる。
この時が、1番嫌だった。
楽しげな笑い声。
私だけ、置いてきぼりにされているような心地になる。
ー実際、そうさせているのは私なんだけど。
またため息をつきそうになる。
それを堪え、机に座って本を開いた。
それから何時間たっただろうか。
疲れた目をしょぼしょぼさせながら、階下に降りた。
翠さんは仕事に行ったのだろう。
机の上にメモが置いてある。
『お昼ご飯は、コンロにある煮物とご飯です。』
とりあえず水を飲もう、と冷蔵庫に向かった。
その時。
机に体がぶつかり、1枚のチラシがひらりと羽のように舞い降ちた。
ー⁇
机の上に戻そうとして、何気なくそのチラシを見る。その瞬間、私は固まった..と思う。
そこには、このようなことがー
『客船 Marin Seep号 少女乗務員募集中‼ 客船 Marin Seep号は、この度リニューアルする運びとなりました。 諸事情により乗務員が不足しておりますので、ぜひ、やる気のある少女の皆さんにお任せしたいと思っています。
食事、住居付き (住み込み)辞めたくなったらいつでもOK! まずはご連絡を!
あなたも、海の旅に出かけませんか?
電話番号xxx−xxxx−xxxx』
「これだ〜っ」
私は思わず叫んでしまった。
翠さんが玄関の扉を開けた瞬間、待ちかまえていた私は、その目の前にチラシを突き出した。
「翠さん...‼これ…」
「天ちゃん、珍しいね。お出迎えなんて久しぶりじゃない。」
「そうじゃなくて!このチラシ、なんであるの?翠さん、チラシ取らないんだよね?」
ようやく翠さんの目がチラシに向く。
「ああ、それ⋯。私の妹が、客船を経営してるの。それで、天ちゃんが、その⋯学校に行ってないことを話したら、それを渡されてね⋯。」
